徹底的に一剣を磨き続ける スリム、スピード、フットワークが重要

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大きく変動する経営環境の中で、中堅企業はこれからどのような道を歩んでいけばいいのか。中堅企業のよさを生かしながら、企業価値を向上させていくためにはどのような道があるのか。ローランド・ベルガー日本法人会長の遠藤功氏に伺った。

日本には優れた中堅企業が多い

―― 日本には優れた中堅企業が多いと言われています。今、中堅企業を取り巻く環境はどのように変化しているのでしょうか。

遠藤 世界的に見ると、中堅企業の数はどんどん減っています。大手企業によるM&Aの対象になっているからです。米国では今や、大企業と中小企業に二極分化しつつあり、個性的な中堅企業が存在するのは日本とドイツくらいです。他社にはまねのできないような独自の製品やサービスを打ち出して、ビジネスの非常に重要な部分を担っている中堅企業がまだ数多く存在するのが日本の独自性です。そこはこれからも大事にしていかないといけません。

―― そうした中堅企業がM&Aのターゲットにならないようにするには、どうすればいいのでしょう。

遠藤 ドイツの中堅企業は非上場企業が多いのが特徴です。ファミリー経営でM&Aのターゲットにならないようにしているわけです。それに対して日本は株式を公開している中堅企業も多い。そうした会社が買収されないようにするためには、高付加価値の商品やサービスを出し続けて、利益率を高くして高株価を維持するしかありません。技術にしろサービスにしろ、何かが際立っていないといけない。逆に言うと、それがあれば中堅企業でも十分戦っていけるのです。

―― 高付加価値のものやサービスを出し続けるのは容易なことではありませんが。

遠藤 中堅企業には専業が多いことも一つの特徴です。その道一筋に歩んできた強みがある。私は「一剣を磨く」と言っているのですが、これはかなわないと大企業が認めるくらい徹底的に一剣を磨いていく。そうした中堅企業はとくに地方に数多くあります。海外からも多数の訪問者がわざわざ訪ねてくるような中堅企業が存在しているのです。

何よりも、経営者の先見性、マネジメント力と、それを支える現場力、技術力、それらを一体化することが大切です。中堅企業が大企業と一番違うのは、スピードとフットワークです。経営者と現場が近く、意思決定が速い。そして、すぐに実行に移す。そしてもう一つはスリムであることです。管理部門もスリムで、オーバーヘッド(間接費)も小さい。贅肉をつけずに研ぎ澄ました価値を磨き続けることが中堅企業の生きる道です。ですから、効率化は永遠のテーマ。そこを緩めてはなりません。

―― 効率化とともに、中堅企業にとって大切な経営課題の一つにガバナンスの仕組みをいかに構築していくかというテーマがあります。中堅企業のよさをそこなわずにガバナンスを強化していくためには、どうすればいいのでしょうか。

遠藤 中堅企業にとってもガバナンスが重要なのは言うまでもありませんが、ここでもスピード、スリム、フットワークという要素を求めることが大事です。たとえば大企業は社外取締役を入れたりしていますが、私から見ればどんどん重たくなっている。大企業のような企業統治をしていたら、スピード、スリム、フットワークという中堅企業の強みが損なわれてしまいます。中堅企業ならではの強みを生かし、現場力を磨く中でガバナンスも強化していくことが大切です。もちろんITの活用は当たり前のことですが、それもスピードとスリムとフットワークということを意識しないといけません。オーバースペックのシステムではなく、身の丈に合ったものを導入すべきです。中堅企業にあったガバナンスのあり方を追求していくことが欠かせません。

中堅企業は、体格ではなく体質で勝負しなくてはなりません。大企業が入ってこないような規模の、高い技術力が求められるスペシャリティな市場で勝負することが重要です。ニッチでも、世界中を開拓すればそれなりの市場規模になるはずです。そうした市場で、他社にはまねのできない高付加価値のものを提供し、売り上げではなく利益率を重視する。実際、優良な中堅企業は利益率がとても高いのです。独自性の高いキラッと光る中堅企業がたくさんあることが、日本の産業構造の特徴であり、日本の強さを支えている大きな要素なのです。

世界へ出て行くという挑戦を

―― ドイツと日本の中堅企業を比べたとき、一番違うのはどういう点ですか。

遠藤 ドイツの中堅企業はグローバル化が進んでいます。早い段階から世界で勝負することを強く意識している企業が多いのです。それに対して日本はまだまだグローバル化が遅れている中堅企業が多い。独自の強みをさらに磨き、積極的に海外に打って出なくてはなりません。

―― なぜグローバル化が遅れたのでしょうか。

遠藤 これまでは国内市場だけで十分成長できました。しかしもうそういう時代ではありません。日本の中堅企業にとってグローバル化は大きな課題であるとともに、大きなチャンスでもあります。ほかにはまねのできない技術や製品、サービスがあり、それを必要とする顧客は、海外にも必ずいるはずです。

―― 世界に挑戦する際の留意点を聞かせてください。

遠藤 自力で直接顧客を開拓する努力を粘り強くすることです。顧客の懐に飛び込み、ニーズを聞き出し、新しい価値を提案していく。顧客との距離をちぢめ、泥臭い努力を繰り返していくことが、ノウハウとなり、人材育成にもつながります。自分たちの価値を自分たちで売り込んでいくというマインドが大事です。世界中が自分たちを求めているのだと信じて挑戦していってほしい。しかし、安売りはしてはいけません。顧客が、ほかの会社ではだめだ、これがほしかったのだというものであれば、必ず受け入れてくれます。世界を舞台に、ほかにはない尖った商品やサービスを生み出し、顧客の要望に応えながら磨き続けていくのが中堅企業の生きる道なのです。

遠藤功
ローランド・ベルガー日本法人会長。早稲田大学商学部卒業、米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。2016年3月、13年間教鞭を執った早稲田大学ビジネススクール教授を退任。著書に、『現場力を鍛える』『見える化』『現場論』(いずれも東洋経済新報社)、『新幹線お掃除の天使たち』(あさ出版)、などベストセラー多数。新著に『結論を言おう、日本人にMBAはいらない』(KADOKAWA)
2020年に向けた中堅企業の事業戦略は?
~『中堅企業調査レポート 2016』の結果から~
日本経済の活性化の原動力として期待されている中堅企業。アメリカン・エキスプレスは、そのような中堅企業の課題や将来への取り組みの実態を把握すべく、日本の中堅企業250社への意識調査を実施した。6割が2020年に向けての事業計画があると回答。半数が、海外の動向を意識している一方、海外に拠点を構える企業は少数派。必要に応じて出張して対応しているという企業が多かった。
※年間の売上規模が約5億円以上、250億円未満の企業