社会的課題にイノベーティブに取り組み、市場を創出してほしい

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国際統合報告評議会(IIRC)は、企業の財務と非財務を統合した形で報告書を作成することを提唱しています。非財務情報である、環境、社会、ガバナンスは「ESG(Environment、Social、Governance)」とも呼ばれます。すなわち、工場でどんな化学物質を使っているか、環境管理や労働環境はどうなっているか、コーポレートガバナンスはどのように位置づけられ機能しているか、いまでは明確に開示することが求められています。CSRとは、マネジメントそのものであり、本来はやりすたりのあるようなものではありません。

社会的な課題の解決にイノベーションで取り組んでほしい

―女性の働き方の問題など、日本の企業が長く慣習的に行ってきた方法がグローバルでは通用しなくなりつつあります。CSRをベースにした経営を実践するためにはどのような点に留意すべきでしょうか。

谷本 先ほどお話しした財務情報と非財務情報の統合は一つのポイントです。当然ながら、連結子会社については財務情報をしっかりと計算して把握していると思います。ところがその非財務情報については、国内の拠点しかわからないという企業が多いのです。これは大きな問題です。

もちろん、実際に非財務情報を収集するのは容易ではありません。CO2の削減一つにしても、国内の主要工場の情報はあっても、ほかの国にある子会社の情報はまったくないといった具合です。また、100%子会社ならまだ把握しやすいかもしれませんが、50%以下の関連会社にどのくらい意見が言えるのかといった課題があります。さらに、資本関係のないサプライチェーンまでとなるとその管理は難しくなります。

これらの課題を解決するためには、CSRの部門自体を経営に組み込むとともに、適切な権限や役割、予算を与え、関連部署との連携をしっかりと行える体制を整える必要があります。

―CSRが企業経営そのもののあり方を問うものだとすると「わが社らしいCSRとは何か」がますます重要になってくると考えられます。

谷本 国連は2015年9月、持続可能な開発のための17の目標からなる「SDGs(Sustainable Development Goals)」を発表しました。ここでは、貧困、持続可能な消費と生産、気候変動などの課題に取り組むにあたって、政府・NGOのみならず企業がコアコンピタンスを活用し新しい仕組みを生み出していくことが大きなテーマになっています。

キーワードは「イノベーション」です。社会イノベーションやサステナブルイノベーションといった言葉を使う会社も増えてきました。

たとえば、水を管理する技術や省エネの技術など、本業のコアになるリソースを活用してその企業ならではのやり方で社会的課題の解決に取り組むのです。技術だけでなく、新しいビジネスの仕組み、あるいは新しいマーケティングの手法などを開発し、持続可能な発展に貢献して、経済的な成果や社会的成果を生み出すことが期待されます。

さらに、いくらいい製品をつくっても独りよがりでは社会に受け入れられません。大切なのはステークホルダーとのエンゲージメントです。国際的な社会の中で、何が重要な課題であり、それに対して自社が貢献できるのか、イノベーションのヒントになるようなものを一緒に考えるようなエンゲージメントがとても重要です。その上で、今やっている事業が地域社会でどのような成果を生んでいるのか、見えやすい形で社内外に開示していくことが大事です。

日本企業には高度な技術力のほか、優れた点がいくつもあります。ぜひ、社会的な課題にイノベーションをもって取り組み、新しい市場を生み出してほしいと願っています。