「INNOVATE HACK KYUSHU」
イノベートのハブが誕生した日
日本IBM×地元企業×アイデア

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「世界を動かすイノベーションを九州から」をキーワードに、九州におけるオープン・イノベーションの創出を推進するプログラム「INNOVATE HUB KYUSHU」(主催:日本アイ・ビー・エム)。その中核となるハッカソン・イベントの決勝戦が9月6日、福岡市のJR九州ホールで行われた。国内外90組のエントリーの中から頂点である最優秀賞に選ばれたのが、チーム「UMYAH」の『お手伝い預金-Watsonが実現する新しいお手伝いの形-』だ。IBMのWatsonとFinTech APIを活用し新しい金融サービスの可能性を示した点が高く評価された。

新しいテクノロジーを活用し
銀行の顧客接点を強化

日本アイ・ビー・エム(日本IBM)と九州の有力企業が新しいビジネスアイデアを後押し、イノベーションの可能性を示す「イノベート・ハック九州」が決勝戦を終えた。受賞者、そしてイベントそのものへの期待が広がるものとなった。

「イノベート・ハック 九州」は、九州だけでなく、全国、さらには海外から約90組のエントリーがあり、44組が2次選考に進み、DemoDay(デモデー:決勝戦)には11組が残りプレゼンテーションでしのぎを削った。審査員の1人である新事業コンサルタントの本荘修二氏は総論として、「11組すべて可能性と驚きがあるプレゼンテーションだった。受賞は目的ではなく始まり。ビジネスモデルの面ではこれからというチームも少なくない。ユーザーやビジネスパートナーなどと対話をしながらブラッシュアップしてほしい」と期待を込めた。受賞者と協賛企業は、これからアイデアをビジネスに変えているスキームが控えている。

主催者である日本アイ・ビー・エム専務執行役員の武藤和博氏も確かな手応えを口にした。

武藤 和博日本アイ・ビー・エム専務執行役員 地元企業とのコラボレーションに尽力してきた

「日本IBMは過去数十年間にわたり、九州の企業の方々、自治体の方々、そして、大学の方々とさまざまな連携を進めてきた。その多くの方々から、この九州の地から大きなイノベーションの風を吹かせたい、何かやろうじゃないかという声をいただき、『イノベート・ハック 九州』がスタートした。これまで、600人以上の方々にBluemixの勉強会にも参加いただき、このイベントに90組ものエントリーを迎えた。応募された方の年齢は10代の高校生から78歳の方まで幅広く皆さんのエネルギーを感じ、決勝戦に進んだ11チームも、甲乙つけがたく、審査員泣かせだった。今日で、ハック(Hack)フェーズが区切りを迎えるが、このハックのあとにビルド(Build)のフェーズがあり、グロー(Grow)させていくフェーズがある。九州人の持つこの熱を絶やすことなく次のフェーズにつなげていきたい」

また、武藤氏とともにイベントを主導してきた日本IBM マーケティング&コミュニケーション クラウド・マーケティング 理事の古長由里子氏はこう総括している。

「『イノベート・ハブ 九州』および、その中核となる『イノベート・ハック 九州』を企画した当初には、この規模、クオリティーでできるのか手探りのところもあった。それが実現したのは、協賛の企業、協力団体・企業、社内外のボランティアスタッフの力によるものが大きい。全員で作り、成功させるという、新しい働き方、アイデアの実現の仕方、イノベーションの起こし方を一連の活動を経て実現したと自負している。これからメンタリングなどビルドのフェーズも始まる。引き続き、協賛企業の皆さんなどにはビジネスのオーナーシップをもってご協力をいただけると感じている。これからも、その進捗にご注目いただきたい」

その言葉どおり、九州から全国、世界を目指す人たち、そしてパートナー企業や機関、エンジェルなどの支援者が集まる「ハブ」がここに生まれ始動した。今後の発展が大いに楽しみだ。

最優秀賞をご紹介
今回、最優秀賞を受賞したチームを紹介しよう

金融サービスを取り巻く環境が大きく変化している。人口減少による顧客数の減少、交通系ICカードやEC決済による現金ニーズの低下など、銀行の顧客接点が失われつつある。

チーム「UMYAH(ウミャー)」が提案した“『お手伝い預金』-Watsonが実現する新しいお手伝いの形-”は、その課題を新しいテクノロジーを利用して解決しようとするものだ。

IBMのBluemixが大きな役割を果たす

「お手伝い預金」は、IBMのWatsonとFinTech APIを活用し、子どものお手伝いをきっかけに、自動で行う親子間の送金サービスである。具体的には、子どもが何らかのお手伝いをし、スマートフォンなどを通じてWatsonに話しかけると、Watsonはその言葉を認識するとともに、市場の相場などを参考に、お手伝いの対価としていくらの金額が妥当かを判断する。さらに、SNSのLINEを利用して、子どもの親にその内容を送信する。親がそれを見て、承認を言葉で返事すると、WatsonはIBM Fintech APIを利用し、親の口座から子どもの口座に振替を行う。

子どもはお手伝いにより、目標金額を設定したり、ECサイトのAPIを呼び出して、自分が欲しいおもちゃを決めたりすることもできる。技術的には、IBMが提供するBluemix(クラウド上でアプリケーションを構築・管理・実行するプラットフォーム)を利用し、Node-REDと呼ばれるハードウェアデバイスおよびAPIなどを接続するツールで、言語のテキスト化ツール、LINE API、Watson、IBM FinTech APIなどを接続している。

Watsonには事前に、さまざまなお手伝いに関連する用語を学習させてあるため、まだ読み書きができない小さな子どもが、普段の言葉で話しかけても、その報告ができるわけだ。

チーム「UMYAH」はプレゼンテーションの場で、「Bluemixを活用することで、さまざまなサービスをつないでいくだけで、サーバーレスで簡単にプログラミングができた」と開発過程を紹介した。

地方からでも、自分たちのアイデアを
発表し形にすることができる

これは銀行の差別化に活用できそうだ。さらに、銀行だけでなく、タクシー配車サービス「UBER(ウーバー)」など、サービスを提供する人と利用する人をマッチングする仕掛けにも使えるという。

「UMYAH」の「お手伝い預金」は、最優秀賞とともに、協賛企業の1社である、ふくおかフィナンシャルグループによるテーマ賞「まち・くらし/観光・エンタメ・スポーツ賞」も同時受賞している。

ふくおかフィナンシャルグループ 経営企画部長の河崎幸徳氏は「非常に斬新で感銘を受けた」とし、マネタイズ(収益化)についてはどう考えているかと質問した。これに対して「UMYAH」は、データの二次利用により、教育ローンの提案、お手伝いと学力の関係などのデータのほか、購買データ分析、マーケティングなどでニーズがあるのではないかと、その可能性を広げてみせた。「フィンテックという柱を中心に、Watsonが人と人とをつないでいく世界を実現したい」(UMYAH)と語るように、新たな市場を創出する可能性を秘めている提案と言えるだろう。

ちなみにチーム「UMYAH」のメンバーは、大分県大分市のシステムインテグレーターであるオーイーシーの社員が部門横断で集まって構成されたという。UMYAHによれば、「日ごろは受託開発が中心で、自分たちでゼロから作り上げることはほとんどなかった。今回、職種や社歴も異なる社員が集まり、意見を出し合ってブラッシュアップしていくことができ、非常にいい経験になった。また、地方からでも、自分たちのアイデアを発表することができることを感じた。プログラムが2回、第3回に続くために、きっちりとサービス化して結果を残したい」と力強く語った。