ワークスタイル変革は、経営戦略だ。 夏野剛が語る日本企業が変わるための2つの道とは
それは今も日本が20世紀の常識にとらわれているからかもしれません。高度成長期に効率的だったシステムをいまだに変えられない。だから、ワークスタイルも変わらないのです。その結果、生産性も向上しない。20年以上も経済が停滞している今、過去と同じことを続けていても現状を打破することはできません。
―では、今から何をすべきなのでしょうか。
夏野 日本の企業が変わるには今、2つの道しかありません。グローバル化と過去の延長線上にない付加価値をつくることです。それを実践していくためには、組織と個人の関係を見直すことが重要になってきます。
20世紀と21世紀でいちばん変わったことは何かといえば、専門家の定義が変わったことです。20世紀は、どの組織に属しているかで個人の専門性が決まっていました。ところが、今や個人がネット検索で圧倒的な情報を得られるようになった。どこの組織に属していようと関心さえあれば、誰でも専門家になれる時代になったのです。いわば、1人のオタクが100人のエリートに勝てる時代が来てしまった。その意味で、組織と個人の関係をもっと緩やかにし、社内外のあらゆる人材を活用できるようなフレキシブルなワークスタイルに変革すべきなのです。
―個人はワークスタイルの変革でどんな影響を受けますか。
夏野 これからは時間ベースではなく、アウトプットベースの労働評価に変わっていくでしょう。ネットでいつでもコミュニケーションができる時代に、企業が一律の雇用・勤務体系である必要はありません。労働時間の短縮が叫ばれている今、アウトプットでの労働評価が実現できれば、介護や子育てのための時間を確保しやすくなるし、在宅勤務も可能になる。さらに無駄な残業もなくなっていくはずです。多様なワークスタイルが生まれていく中で、私たちは自分に合った働き方を選ぶことができるのです。
―個人からも働き方を変えていけるのでしょうか。
夏野 この21世紀に生きているということは、どの会社に属していようが、自分の可能性を拡げられる時代に生きているということです。自分の好きなことがあれば、それを追求できるのです。大事なのは、組織も個人も「一律であること」に固執しないことです。
―ワークスタイルの変革は組織にどんな影響を及ぼしますか。
夏野 大きく変わるのはイノベーションです。イノベーションは、いつも同じようなメンバーで、同じような会議をして生まれるものではありません。そもそもイノベーションの源は摩擦です。異分子が入ってくるから摩擦が起きて、意見が違う人がいるから摩擦が起きる。その摩擦を乗り越えるために、イノベーションが生まれるのです。最近注目されるオープンイノベーションも、他企業や他リソースと連携することで可能になるものだと思います。だからこそ、ICTを活用した多様性のあるワークスタイルに変革することが必要なのです。
―ワークスタイル変革を検討中の経営者の方々にメッセージをお願いします。
夏野 人事や労務の改革は時間がかかります。思いついてもすぐに実現できません。だからこそ、今すぐにでも手をつけるべきなのです。すでにワークスタイルを変革したことで生産性が大きく向上し、売上、利益ともに大幅に増加した企業も出てきています。ワークスタイル変革は大きな成果を生む。今、いちばん必要なことは経営者のやる気なのです。