江戸崎かぼちゃの熱意に迫る JA稲敷(茨城県)

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単価は一般的なかぼちゃの約1.9倍

「江戸崎かぼちゃ」は市場や仲卸の関係者の間では、品質について、生産者個々人でのばらつきや、年ごとのばらつきも少ないことから、信用性の高い農作物として取引されている。

「先輩方から受け継いだ江戸崎かぼちゃならではの取り組みによって、市場では過去10年間、一般的なかぼちゃの約1.9倍と高い単価がついています。しかしそうは言っても、収穫量は面積に応じて限度があるため、急に数量を増やすことはできません。一つひとつ手づくりで丹念に育てなければ、良いものはできないのです」

GI登録も、これまで積み重ねてきたブランド力向上という文脈の上で理解することができる。また、江戸崎かぼちゃづくりそのものの魅力が増すことで新たな生産者を呼びこむという効果も期待できるのではないだろうか。

今回、GIに登録されたことで、「江戸崎かぼちゃ」はお墨付きを得た特別なブランドとして、さらに存在感を増すことになるだろう。では、次の展開についてはどのようなシナリオを描いているのだろうか。魚住さんの問いに田丸氏は力を込めて、こう答えた。

「生産者の意欲は高まっています。一方で、生産者の高齢化が加速する中、産地の供給体制をどのように維持し、そして発展させていくのか、新しい挑戦が始まります。GIを機に、さまざまな方から輸出などで規模拡大を図るように激励を受けており、今後は新規生産者を呼び込む施策などに積極的に取り組んでいこうと考えています。またGIマークを付けた贈答用の特製化粧箱をつくるなどプロモーションを強化したり、有名シェフと組んで新しい食べ方を提案したり、多くの活動を通して、さらに江戸崎かぼちゃを全国の方々に知っていただければと思います」

小さい時は柔肌で、大きくなったら日焼けは大敵

有名シェフが考案したかぼちゃ料理のレシピを見た魚住さん、「デザートにもいろいろ使えそうですね」とコメント。「しかも、完熟したかぼちゃとなると、出来るだけ早く料理した方がいいですね」と魚住さんが言うと「手元に届くときが一番の食べ頃になります。遅くとも購入されてから1週間以内には食べてくださいね」と田丸氏。「ですから、JAとしてもスピード感をもった出荷をしなければなりません」。

魚住さんが次に会いに行ったのが、「江戸崎かぼちゃ」の生産者をまとめている江戸崎南瓜部会の部会長である中村利夫氏だ。訪れた圃場では、収穫期を迎え、甘い香りが漂っていた。

「かぼちゃの花は甘い香りを出します。ただ、この花は、朝明るくなると同時に開いて、温度が上がってくる午後にはしぼんでしまいます。」

江戸崎のかぼちゃ農家の間では、大切な子供と同じように「江戸崎かぼちゃは、放っておいては育たない」というのが、口ぐせとなっているという。
「かぼちゃは固いというイメージがありますが、玉が膨らんできているころは、とにかく表面がやわらかい。風が吹いて、茎がちょっとでも玉に触れると傷ついてしまう。細かな手間暇をかけないと元気に育ってくれないのです」

江戸崎かぼちゃの圃場に入った魚住さんは、テープが貼られたかぼちゃがあることに気づく。かぼちゃの葉は太陽の光を遮る役目があるのだが、すき間から漏れる光による日焼けを防ぐため粘着テープを貼る。「日照が強くて晴れ過ぎると、葉と葉の隙間から、かぼちゃが日焼けしてしまって、色が変わってしまうのです。味は問題ないのですが、出荷できないほどに変色してしまうことがあるのです」と中村氏。さらに、よく見ると、完熟を迎えつつあるかぼちゃの下には発砲スチロールなどが敷かれている。土に触れる部分も色が変わってしまうことがあるので、「ざぶとん」と名付けられた敷物の上にかぼちゃをのせている。しかも、ざぶとんの上のかぼちゃは、毎日、少しずつ動かすという念の入れ用だ。

チーム江戸崎かぼちゃのメンバーは30名

現在、江戸崎南瓜部会に所属する部員は約30名。働き手の中心となるのは60代以上のベテランたちだ。

残念ながら、現在は出荷を終えている。期間限定のため、来年の6月に店頭に並ぶまで待たなければならい

土づくりから出荷まで遵守しなくてはならない栽培管理のルールは細かく、生産者はブランドの品質維持に余念がない。

「収穫前に一つの圃場から一つずつ生産者がサンプルを採果し、検査場で試割りをして出荷日を決めます。それぞれのかぼちゃの出荷時期はA、B、Cと分けていくのですが、それには一人ではなく、生産者全員を納得させなければなりません。だから、検査は非常に厳しい。名前は伏せられ、すべて番号で検査されます。遠慮や配慮などはなく、『これくらいでいいだろう』という妥協的評価もありません。それが江戸崎かぼちゃの品質を担保しているのだと自負しています」と中村氏。「だからこそ、収穫するときはうれしいですね。ただ、計画された出荷スケジュールの中で、収穫しなければなりませんし、箱に入れて商品となって全国に出荷されると今度はお客様の反応が気になる。つねに気は抜けません」。

このように「江戸崎かぼちゃ」は完熟収穫、厳正な検査、スピード出荷という連携から、信頼されるブランドとして高い評価を得るに至った。そこには「どんなことがあっても品質は落とさない」という強い熱意が垣間見える。

では、「GI登録されたことで変わったことは何か?」と魚住さんが質問すると、中村氏は笑顔でこう答えてくれた。

「大変なものをもらったとは思いますが、現場では何も変わっていません。お客様が評価するのは、おいしいか、おいしくないか、どちらか一つです。われわれにとって一番大事なのは、おいしいものをいかにお客様に提供するか。それしかないのです」