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理系の立場で観光を研究・教育
「観光科学」の確立を目指す 首都大学東京

  • 制作:東洋経済企画広告制作チーム
観光が今、重要な成長分野として注目されている。
大学の観光系学部・学科への期待も高まっているが、その中でも、国内では数少ない理系の立場から観光研究・教育を行っているのが首都大学東京だ。
理学、工学、農学、社会科学など多様なアプローチによる「観光科学」を提唱し、特色ある取り組みを進めている。

既存の研究分野の枠を超え
総合的に観光を科学する

首都大学東京(以下、首都大)の観光教育・研究は、まず2007年、大学院の都市環境科学研究科地理環境科学域の中に観光科学専修が発足したことに始まる。翌年、博士前期課程(修士)一期生を迎え、09年には観光科学域として独立、10年には博士後期課程および、学部の一期生を受け入れ始めた。学部は都市環境学部 自然・文化ツーリズムコースという名称である。首都大では、これらを総称して観光科学教室と呼んでいる。

大学院 都市環境科学研究科 観光科学域
都市環境学部 自然・文化ツーリズムコース 教授
清水 哲夫

都市環境科学研究科 観光科学域の清水哲夫教授は、「本学の観光科学教室の大きな特長は、日本では例が少ない理系の立場で観光研究・教育を実践している点です。私も土木工学系の出身で、専門は交通学、社会基盤計画学です。観光科学教室ではほかにも、理学、工学、農学などを専門にする教員が集まり、既存の研究分野の枠を超えた、総合的な学問として観光研究・教育を行っています」と紹介する。

観光学はこれまで、どちらかといえば文科系の学問ととらえられがちだった。それに対して清水教授は「たとえば、財源が限られている中で、観光に必要なインフラをどう整備するか検討するためには、データに基づく現状分析や将来予測が不可欠です」と「観光科学」の重要性を指摘する。

大学院 都市環境科学研究科 観光科学域
都市環境学部 自然・文化ツーリズムコース 教授
川原 晋

同学域の川原晋教授は建築学系出身で専門は都市・地域デザイン、観光まちづくりだ。「現在、多くの自治体が観光に力を入れています。一見、地域の魅力のPRや誘客イベントなど『地域の外の人とつながる』取り組みが目立ちます。しかし、同じく重要なのは、地域の自然や、歴史文化・産業などの地域資源の価値付けや保全、育成などの『観光地域の基盤をつくる』取り組みです。この両輪をしっかりつなぐ仕組みがあって、持続的な観光地域、観光事業が成り立つと思います」

プロジェクトへの参加など
実践的に学べる機会が豊富

両教授の話を聞いていると、観光振興などの成果につながる観光学を実践するためには、まさに、多様な分野の専門家による横断型の研究・教育が不可欠であることがわかる。

首都大の観光科学教室のカリキュラムからもそれがわかる。観光論、観光政策といった科目だけでなく、地理学、環境学、生態学、統計学、都市計画・まちづくり学、交通計画学、景観論、地理情報学、心理学、コミュニケーション学といった多様な分野から観光に迫る科目が揃っている。また講義だけでなく、フィールドワークやプロジェクト・ベースド・ラーニングなどの演習も豊富だ。川原教授は「当初は工学と理学の学問のスタイルや目標の違いにとても驚きましたが、1~2年でこの多様性こそが我々の最大の強みだと感じるようになりました。異分野の教員陣が、毎週共同で講義や演習を行うために、その準備の議論を頻繁に行うのですが、これが一番刺激的ですね。その社会的リアリティや意義を学生にも伝えたい」と語る。

清水教授は、観光地への安全で快適な移動手段を提供する情報技術戦略の研究に取り組んでいる。たとえば、農村部の観光活性化につながる「グリーンツーリズム」では、カーナビでの農園や農家民宿などの目的地設定が実は難しく、案内ルートも狭くて急な山道が提示されるなど不都合が多かった。そこで、自治体と連携して目的地の正確な位置情報を整備してインターネットで公開するとともに、観光客の大量の行動データを利用して正しい経路誘導方略を模索している。

清水教授が取り組む「グリーンツーリズム情報発信」プロジェクト。カーナビを利用して農家などを訪問する被験者の移動経路を取得し、その特徴を分析しながら、正しい経路誘導方略を模索することで、観光活性化を進めている。

川原教授が推進する「高尾山・観光地域マネジメント」プロジェクトは、観光地だからこそ可能な観光者からの収入を活用して、観光地の魅力づくりや、渋滞などの観光地だからこその課題、少子高齢化に伴うまちの課題などに、総合的に取り組む実践・研究だ。まちの人の想いや企業をつなぎ、行政だけではできないビジネスの視点を入れた取り組みである。

川原教授が取り組む「高尾山・観光地域マネジメント」プロジェクトにおける髙尾山薬王院の僧侶へのインタビュー。地域で暮らす人の思いを生かしながら、観光地ならではの新たなまちづくりビジネスを研究している。

清水教授は、「自治体や企業から本教室への共同研究オファーも増えています。多くのプロジェクトが動いており、学生は自分の専攻を深めるとともに、興味や関心の幅を広げることができます」と話す。

2014年4月からは経団連と連携した観光人材育成インターンシッププログラムも実施しており、学生には実習を通して実践的な経験が得られると好評だ。

地域をリードする
自治体職員の養成を目指す研修も実施

川原教授は「実際のプロジェクトでは多様な関係者が参加することから、『かくあるべき』だけで進むものではありません。そこで成否を分けるのが、やはり『人』。プロジェクトをマネジメントできる、ディレクター、プロデューサーになる人材の育成が重要です」と語る。

最近では、地方創生政策が進められており、多額の予算が投入されている。一方で、事業を計画する自治体では、これに対応できる知識や経験を備えた人材が不足しているのが現状だ。

そこで首都大では、観光科学教室が中心となって、キャンパスがある多摩地区の各自治体にネットワークを有する多摩信用金庫と連携し、自治体職員向けの研修を今夏に始めることを決定。地理情報システム(GIS)や各種統計ソフトなどさまざまな解析ツールを活用し、地方創生事業におけるKPI(重要業績評価指標)評価に役立つデータ解析手法が学習できるという。ここでは、所属自治体における発注仕様書の作成など実務的な課題にも取り組む予定だ。

「各自治体の将来の幹部候補生となる人材を養成したいと考えています」と清水教授は力を込める。

むろん、多摩地区のみならず、全国の官公庁、民間企業、NPOをリードする人材が今後、首都大の観光科学教室から輩出されるに違いない。大いに楽しみだ。