理系の立場で観光を研究・教育
「観光科学」の確立を目指す
首都大学東京

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清水教授は、観光地への安全で快適な移動手段を提供する情報技術戦略の研究に取り組んでいる。たとえば、農村部の観光活性化につながる「グリーンツーリズム」では、カーナビでの農園や農家民宿などの目的地設定が実は難しく、案内ルートも狭くて急な山道が提示されるなど不都合が多かった。そこで、自治体と連携して目的地の正確な位置情報を整備してインターネットで公開するとともに、観光客の大量の行動データを利用して正しい経路誘導方略を模索している。

清水教授が取り組む「グリーンツーリズム情報発信」プロジェクト。カーナビを利用して農家などを訪問する被験者の移動経路を取得し、その特徴を分析しながら、正しい経路誘導方略を模索することで、観光活性化を進めている。

川原教授が推進する「高尾山・観光地域マネジメント」プロジェクトは、観光地だからこそ可能な観光者からの収入を活用して、観光地の魅力づくりや、渋滞などの観光地だからこその課題、少子高齢化に伴うまちの課題などに、総合的に取り組む実践・研究だ。まちの人の想いや企業をつなぎ、行政だけではできないビジネスの視点を入れた取り組みである。

川原教授が取り組む「高尾山・観光地域マネジメント」プロジェクトにおける髙尾山薬王院の僧侶へのインタビュー。地域で暮らす人の思いを生かしながら、観光地ならではの新たなまちづくりビジネスを研究している。

清水教授は、「自治体や企業から本教室への共同研究オファーも増えています。多くのプロジェクトが動いており、学生は自分の専攻を深めるとともに、興味や関心の幅を広げることができます」と話す。

2014年4月からは経団連と連携した観光人材育成インターンシッププログラムも実施しており、学生には実習を通して実践的な経験が得られると好評だ。

地域をリードする
自治体職員の養成を目指す研修も実施

川原教授は「実際のプロジェクトでは多様な関係者が参加することから、『かくあるべき』だけで進むものではありません。そこで成否を分けるのが、やはり『人』。プロジェクトをマネジメントできる、ディレクター、プロデューサーになる人材の育成が重要です」と語る。

最近では、地方創生政策が進められており、多額の予算が投入されている。一方で、事業を計画する自治体では、これに対応できる知識や経験を備えた人材が不足しているのが現状だ。

そこで首都大では、観光科学教室が中心となって、キャンパスがある多摩地区の各自治体にネットワークを有する多摩信用金庫と連携し、自治体職員向けの研修を今夏に始めることを決定。地理情報システム(GIS)や各種統計ソフトなどさまざまな解析ツールを活用し、地方創生事業におけるKPI(重要業績評価指標)評価に役立つデータ解析手法が学習できるという。ここでは、所属自治体における発注仕様書の作成など実務的な課題にも取り組む予定だ。

「各自治体の将来の幹部候補生となる人材を養成したいと考えています」と清水教授は力を込める。

むろん、多摩地区のみならず、全国の官公庁、民間企業、NPOをリードする人材が今後、首都大の観光科学教室から輩出されるに違いない。大いに楽しみだ。