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トレビーノが積み上げた30年 畑違いの逆境をはね返したストーリー

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 「♪水は東レのトレビーノ♪」のキャッチフレーズでおなじみの家庭用浄水器「トレビーノ」が1986年の発売から今年で30周年を迎えた。まだ浄水器が普及しておらず、水にお金を払うことが一般的でなかった時代に誕生したトレビーノ。昨今では一般家庭でも浄水器を使うことが当たり前になり、2014年にはカートリッジと本体合わせて累計1億個の販売を突破したトレビーノだが、そこに至る道は決して平坦ではなかった。
 なぜ家庭用浄水器は普及し、トレビーノはシェアNo.1の製品へと成長したのか。1986年の発売当初から商品のマーケティング・販売に携わり、現在は同製品の販売部長を務める佐々木直美さんに、トレビーノの30年の歩みを聞いた。
Photo:90年代トレビーノ販促の様子。製品を「知ってもらう」ため全国で実施された。

牛乳より高い水を誰が買う?
そんな時代の全国行脚

1986年。大手合成繊維メーカーの東レが、家庭用浄水器というまったく異分野の製品「トレビーノ」を発表した。東レには、製品化を考える前にまず開発してみる、というチャレンジ精神に満ちた風土が伝統的にある。そんな中、人工透析に用いる人工腎臓の技術を応用し、偶然生まれた製品がトレビーノだった。

東レは素材メーカーでB to Bの商品を扱う企業であり、その長い歴史の中でトレビーノはコンシューマー向けとして初めての製品。当時入社まもなかった佐々木さんが、製品化以降、その販売に携わることになった。佐々木さんは、「ノウハウも販路もまったくない中で、すべて手探りのスタートでした」と振り返る。

佐々木直美 東レ トレビーノ販売部長
トレビーノの誕生から販売の最前線に立ち、同製品を現在の地位に押し上げた。記事冒頭のキャンペーン写真中央は佐々木部長ご本人。

衣料品関係のコネを頼りに、デパートの家庭用品売り場にトレビーノを置いてもらい、細々と商品を売ることから始めた。そして販路拡大のため、佐々木さんは全国を飛び回ることとなる。代理店の営業マンを訪ねて1件1件回り、浄水器のことをまったく知らないバイヤーに交渉する。浄水器とはどういうものか、トレビーノでは何ができるかを懇切丁寧に説明する日々が続き、「まさに『行脚(あんぎゃ)』という表現がぴったりだった」(佐々木さん)。製品の認知度を高めるため、手作りのチラシを団地のポストなどに自らポスティングまでしたという。

当時は普通に水道水を飲んでいた時代。同時期に日本へ上陸したミネラルウォーターに対しても「牛乳より高い水を誰が買うのか?」という声もあった。発売から数年間は、月3000台売れれば御の字というトレビーノにとって苦難の時期だった。

 
初めての蛇口直結型「トレビーノ・ミニ」を紹介する当時の佐々木さん

状況が好転したのは1988年。初代トレビーノは流しの横に置く据え置き型で、価格は2万8500円。それを蛇口に直接付けるコンパクトな仕様に変更、価格も半額の1万2800円まで抑えた「トレビーノ・ミニ」を発売した頃だ。佐々木さんは当時のことをこう回想する。

「女子社員がおそろいのユニフォームを着て説明員として店頭にも立ちました。『水道水の水質や味に対する不満』『トレビーノは高額すぎる』『かさばりすぎて不便』といった製品に対する要望など、現場ではお客さまからさまざまな声を聞くことができました。こうした声をじかに拾い上げて開発に生かすことで、市場のニーズとマッチした製品を生み出すことができるようになっていったのです」。こうして生まれたのが1990年に発表され、大ヒット製品となった「トレビーノ・スーパーミニ」だった。

邁進の日々に、時代も味方した

トレビーノ・スーパーミニは商品の価格を9000円以下に抑え、蛇口直結型でカートリッジを本体の後ろに横向きに配置することにより、手のひらサイズのコンパクトさを実現した。当時、主婦が自由に使える金額は「1カ月に1万円まで」という声や、従来品では場所を取り家事がしにくいといった声は、「現場で」拾い上げたもの。この声を開発に生かした商品だった。

トレビーノ隆盛への転換点となった「トレビーノ・スーパーミニ」

水への投資がステイタスに変わってきた時代背景や、当時、渇水により水源となる湖沼の水質が悪化したことで、水に対する不安が広がったことも追い風となり、商品が品薄になるほど爆発的に売れた。

さらにその後、東レとしては珍しい、トレビーノの商品単独テレビCMを実施。製品の売り上げと同等の億単位という金額をかけて実施したCMによって製品の認知度は大幅に向上し、「♪水は東レのトレビーノ♪」というキャッチフレーズとともに、トレビーノは同社を代表する製品のひとつに成長したのだ。

2006年に累計販売台数5千万台を突破、2014年には1億台突破と売れ行きは順調に推移。その間もポット型浄水器のような蛇口直結型以外の製品や浄水シャワーなど商品ラインナップを増やしながら、カートリッジの汚れが見える「見え窓」、カートリッジの交換時期を知らせる大型デジタルサインや、ろ過時間の短縮、手入れのしやすさなどを追求し、製品の改善も常に続けている。

佐々木さんはこの30年間を「販売の仕事はずっとお祭りに参加しているようだった」と振り返る。ゼロから商品を説明して理解してもらわなければならなかった黎明期の販路開拓時代、当時は若い女性の営業パーソンに対する偏見もあったが、逆に若い女性の営業がほとんどいない時代に珍しがられラッキーだった面もあった。トレビーノと歩んだ年月は「いつも楽しくて、充実感に満ちた日々だった」(佐々木さん)。売り場に立ち、お客様の生の声を聞き、彼らが必要とする製品を販売する。トレビーノを使って喜ぶお客様の姿が何よりうれしかったという。

さて、30周年を迎えたトレビーノは今年、新たなモデルや記念商品を発表した。おいしくて安心な「生まれたての水」を追求するトレビーノを見てみよう。

 

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