正解のない世界で、自分の頭で考え行動する 東洋大学
荒巻 イノベーションは、最新の技術を使って産業や社会を革新するというイメージでとらえられることが多いのですが、ラクスルの事業に象徴されるように、すでに普及しているインターネットの技術をうまく使った仕組みによって新たな価値を生み出すことも重要なイノベーションのあり方だと思います。東洋大学で2017年4月に新設予定のグローバル・イノベーション学科※では、国際的視点を備え、経済・社会の視点から、国際展開する企業、国際機関、自ら起業したベンチャー、社会的課題を解決する社会的企業で、イノベーションを起こしうるリーダーの育成を目指していて、ラクスルの事業形態はとても示唆に富んでいます。
松本 私たちのアプローチは、市場規模は大きいが進化の速度が遅く、生産性も低いといった課題を抱えた業界に有効だと考えています。中小企業の顧客に対して、低予算でもアクセスしやすい高効率のサービスを提供し、新たな顧客価値を生み出すことは立派なイノベーションです。逆に、顧客に便益を提供できなければ、いくら素晴らしい科学上の発見、新技術の開発であってもイノベーションにはならないと思います。そういった意味でも、イノベーションを起こせる人財とは、テクノロジーを顧客視点で理解し、バイアスをかけずに物事をとらえ、情熱を持って取り組める人だと考えています。
荒巻 イノベーションを起こし、グローバルにネットワークを構築できるリーダーシップには、自ら考え・判断し・行動できる哲学力、国際企業・国際機関で活躍できる語学力、コミュニケーション力、経済学や経営学など基礎から地政学などの応用的な知識といったハイブリッドな能力が必要です。新学科のカリキュラムは、世界の動きを知るグローバル・システム領域、ビジネス系の国際ビジネス領域、人・モノ・情報の流れを理解する国際コラボレーション領域の3つの専門領域で構成しています。そのため国際的に活躍してきたビジネスパーソン出身の教員も増やします。すべての授業は英語で行い、学生の3割を留学生が占める環境を目指します。日本人学生には1年間の海外留学を必修化して、自立心・主体性を培います。
松本 主体性を高めるために、留学生と一緒に長時間過ごす経験は大切だと思います。学生時代にダイバーシティな環境に慣れ、国籍や人種を問わず、一人の「人」として接することは、これからのグローバル人財のあり方としても重要だと考えます。さらに、英語で学ぶことは、日本の全大学でやるべきだと思います。昨年、シンガポールで行われた国際会議に出席して、グローバルリーダーやスタートアップの創業者らと話をする機会がありましたが、そこではビジネスの話はあまりせず、哲学のような物事の本質に迫る話で盛り上がっていました。英語ができること自体に価値はありませんが、英語ができなければ話に参加すらできません。
荒巻 私も以前、アジア工科大学院(本部タイ)で客員の教員を務めたことがありますが、国際的な場で、さまざまな国の人と交流したことは貴重な経験となりました。同様の経験を、新学科のカリキュラムを通じて学生達にもしてもらいたいと考えています。
松本 グローバルに活躍できるイノベーティブな人財にとって重要なのは、正解のない世界で、自分の頭で考え、自分の意思を持つことです。唯一の解があると信じてしまうと、そこで思考は停止します。大学の教育では、多面的な見方やさまざまな意見をもとに、議論することができる教育環境を整えることが大切だと思います。また、海外では20代の若者が成功していることも多く、日本からもチャレンジャーがどんどん増えてほしいと考えているので、イノベーションを起こせるリーダーを育成する新学科の教育には期待しています。
※2017年度開設予定(設置構想中)。学部・学科名は仮称であり、計画内容は変更になる可能性があります。