ジョンソン・エンド・ジョンソン

“元主婦ナース"が、介護疲れの家族を救う 前例のない活動はなぜ全国に広がったのか

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「キャンナスは営利目的ではなくボランティア活動。ですから介護保険によってすべての家族が気軽に支援を受けられるようになるなら、無理に活動を続ける必要はないと思ったんです」

しかし、菅原さんは徐々に考えを改めることになる。それは、介護保険制度下での訪問看護ステーションの不足によりサービスを受けるのが難しい地域があること、そして介護保険ではカバーしきれない多様なニーズが生まれていることを知ったからだ。

「たとえば、冠婚葬祭や趣味のための外出サポートは介護保険の適用外。『孫の結婚式に出席したいけれど、身体が動かないから』と諦めている人や、『願いを叶えてあげたいけれど付き添いは難しい』と悩むご家族のためにも、プロである私たちが出来ることがあると思ったんです。人生を楽しみたいと願うのは、贅沢でもわがままでもないはず。私だって、いつか身体の自由が効かなくなっても、大好きな宝塚を見に行きたいと思うでしょうから(笑)」

「もう一度誰かの役に立ちたい」
一度は現場を離れたナースたちの思い

キャンナス設立から今年で19年。菅原さんの理念と取り組みに賛同したナースたちが各地で立ち上がり、北海道から九州まで全国91か所の支部が誕生している。そこで活動するナースたちは、「一度は医療現場を離れたけれど、もう一度誰かを助けたい」という思いを抱いて集まった人が非常に多い。

「キャンナスでは自分の空いている時間内で活動する仕組みなので、『育児があるから週2日だけ』などという要望にも応えられます。退職してからのブランクに不安を感じるナースも多いのですが、一番大切なのは『介護に疲れたご家族を休ませてあげたい』という志。ナースたちには勇気を出し、自信を持って行動してほしいと常々思っています」

東日本大震災では、菅原さんをはじめ多くのキャンナスの看護師たちが被災地で活動。ナース等のべ1万9000人を派遣し、震災から5年経った現在も仮設住宅などで健康相談を行うなど、精力的に活動を続けている。(震災時の活動にも迫った動画はこちら)

長年の功績が認められ、菅原さんはこのほど第12回『ヘルシー・ソサエティ賞』の「ボランティア部門(国内)」を受賞した。同賞は健全な社会と地域社会の発展のために献身的な活動を行った人々を称えることを目的に、日本看護協会とジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人によって創設され、今年で12回目を迎える。これまでも学術・教育・医療などの分野で第一線で活躍する人たちが受賞してきたが、本年度は菅原さんの他にも、「ボランティア部門(国際)」において歯科医学教育国際支援機構理事長・宮田隆さん、また「教育者部門」において淀川キリスト教病院理事長・柏木哲夫さん、そして「医療従事者/医療介護部門」において公益財団法人東京都医学総合研究所病院等連携研究センター長・糸川昌成さんが受賞を果たした。

「今回の受賞によって、多くの人に支えられて活動を続けてこられたことを改めて実感しています。今後はますます地域に根差した活動を展開していきたい」と、意気込む菅原さん。その顔には、多くの家族の灯となってきた優しい眼差しが浮かんでいた。