いま求められる対話型リーダーシップ 東洋大学

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東洋大学は、1887年に明治の哲学者・井上円了によって創立された約130年の歴史を持つ総合大学だ。哲学を建学の理念とする唯一の大学であり、近年では駅伝や水泳、陸上などの活躍からスポーツが盛んな大学というイメージも強い。一方で、2014年度には、我が国の高等教育の国際競争力の向上を目的に、世界レベルの教育研究を行うトップ大学や国際化を牽引するグローバル大学を重点支援する、文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援 タイプB(グローバル化牽引型)」に採択され、2017年には新学部・学科の開設を構想するなど、グローバル人財育成の取り組みを加速している。そこで、ここでは 「世界で活躍できる人財の条件」と題し、グローバル社会で活躍するために必要な能力とは何か、どうしたら育てることができるのかを全12回の連載を通して明らかにしていく。
第6回は、東洋大学で2017年に国際学部グローバル・イノベーション学科の開設を構想している今村 肇教授に、いま求められているリーダーシップの本質について聞いた。
東洋大学 教授 今村肇
専門は労働と組織の経済学、社会的企業、社会的連携経済。ヨーロッパを中心とする複数の国際学会で副会長などの要職を務め、さらにアジアでも幅広く活動し広いネットワークを持つ

―― グローバル化の進む社会において、いまどのようなリーダーが必要とされているのでしょうか。

今村 旧来の日本型リーダーシップには限界を感じています。日本企業の多くが、本社でトップ自ら意思決定を行っていますが、現場の情報をトップが共有できていない情報の非対称性が問題となっています。何でも本社でコントロールする日本企業は意思決定が遅いとよく指摘されますが、スピードだけでなく正確な意志決定という点でも問題があると、特にヨーロッパやアジアに長く関わっていると強く思います。グローバル化が進行し、刻々と変化する現場のメカニズムに対応できる意思決定の仕組みを構築するには、一人のリーダーによるトップダウンではなく、チームのリーダーそれぞれが意思決定を行うようなリーダーシップが求められていると考えています。例えるなら、これまでの縦社会的なピラミッド型のリーダーシップから、対話を中心とした中間層まで巻き込んだボトムアップによるダイヤモンド型(ひし形)のリーダーシップ、と言えるでしょう。

―― 誠実で共感力やコミュニケーション力のある女性的な価値観を持った「女神型リーダーシップ」など、最近さまざまなリーダーのタイプが議論されています

今村 これまで日本においては、米国型のリーダーシップが主流だったと言っていいでしょう。効率重視で、バランスシートなど数字での管理を重んじ、それに基づいて意思決定を行うようなシステマチックな思考がリーダーには求められていました。しかし、これからますますグローバル化が進展する中においては、人種や自主性、生き方などを尊重しながら、個々の能力を理解し、その都度最適なチームを編制してまとめあげる力が必要になります。リーダーが持つスペシャリティではなく、個々人が能力を発揮することで目標達成を目指すのです。そこで必要となるのは、他者との違いを理解し、受け入れて、適性を見極めながら役割を与える「対話型インタラクティブ・リーダーシップ」で、かねてよりヨーロッパでは当たり前に求められてきたリーダーシップなのです。

―― 今村先生はヨーロッパを中心とした国際学会での実績が豊富で、ネットワークも広いと伺いました。

今村 ヨーロッパでは、個々の意見は違って当たり前という文化があります。たとえば、日本では出る杭は打たれるけれど、フランスでは出ない杭は腐ると言っていいほど、違った意見でないと聞いてもらえません。他人の権利や個性に配慮しながら、個々の違いを理解して、対話しながら一つの答えを見出すのが伝統になっているんですね。東洋大学で構想しているグローバル・イノベーション学科では、こうした寛容さ、柔軟さを持ち、他者との対話からイノベーションを起こせる対話型インタラクティブ・リーダーシップを持った人財を育てていきたいと考えています。

―― どのような経験や教育によって対話型インタラクティブ・リーダーシップが身に付くとお考えでしょうか。

今村 経済から社会、産業、環境、市民、公共、貧困、不平等、紛争まで、世界を取り巻くさまざまな課題を対話によって解決するためのシミュレーショントレーニングとして、「演劇ワークショップ」が有効と思います。グループごとに課題を設定して分析、調査したうえで、英語でシナリオを描き、発表を行いフィードバックしていくというプログラムです。東洋大学で2017年に開設を構想しているグローバル・イノベーション学科では、授業を原則英語で実施しますが、これは語学力の向上だけが目的ではなく、何よりもグローバルな場面での対話を通じた問題解決能力を鍛えたいと考えていますので、この「演劇ワークショップ」を取り入れた教育を行う予定です。

―― グローバル・イノベーション学科は国際社会で活躍するリーダーを育成されると伺っています。

今村 この新しいコンセプトの学科では従来のケーススタディを発展させた実践に近い経験の場を与える、また恥をかく、失敗をさせて学ぶ機会を提供したいと考えています。そのため、学生に“現場”を提供できるネットワークの豊富な教員をそろえました。経歴も国務大臣経験者、国際機関や日本政府、ビジネスコンサルタントなどさまざまで、学生の多様なニーズとキャリア展開に対応していきます。また、学生達には春休みや夏休みなど長期休暇を利用した、プロジェクトベースで参加できる「ラーニングジャーニー」にも、積極的に参加してほしいと考えています。「ラーニングジャーニー」とは、異なる視点を持ったメンバーで構成するグループが、課題を抱える複数の地域でヒアリングを行い、各地域の持つ特色やシステムを繋げることで、地域を越えた包括的な課題解決を考える学びの旅です。世界的にリーダーシップ教育の手法として注目されています。たとえば、1カ月で4カ国を回って課題を抽出し、大学や企業、NPO、起業家などからのヒアリングや対話を通して、各地域の資源やニーズをつかみ起業プランを提言する「アントレプレナーシップ&イノベーション・ラーニングジャーニー」などのプログラムを計画しています。さらに、企業や政府、国際機関から問題提起をいただき共同で解決に向けた方策を検討、プレゼンテーションを行う「PBL(課題解決型学習)」も多数実施する予定です。こうした実践的なプロジェクトベースの科目群を10枠以上用意するのに加え、自主的な学生の研修活動も届け出に基づく審査により単位認定します。

―― 実践的な学びを積み重ね、即戦力を育てるというわけですね。授業を英語で行うことに加え、定員の3割を外国人留学生とし、日本人学生には海外での1年間の留学も必須とする計画です。

今村 新学科ではクォーター制を導入し、日本人学生の留学と外国人留学生の受け入れをしやすい体制を整えます。また、授業は英語で行うことに加え、反転授業によるディスカッション重視の授業を行っていきたいと考えています。基礎知識は自宅でネット教材を使って学び、自分が理解できないことを授業でぶつけ合う、互いに教え合う、そうすることで、自分で考えながら問題解決ができる人財を育てていきたいと考えています。

―― 意欲が求められるカリキュラムだけに、学生のモチベーションを喚起することも大切になります。

今村 さまざまな現場で活躍する経験豊富な教員ばかりですから、学生をインスパイアできると自信を持っています。何より、自分の人生をマネージするのは自分自身です。自分の人生を楽しむために、セルフ・ディシプリンを高めて、力を最大限発揮してほしい。その結果、周囲にも、世の中にも影響を与えながらパフォーマンスを出せる人になってほしいですね。国際社会で活躍するというのは結果に過ぎません。一人ひとりが自分の居場所で能力を発揮し、結集していくことが、世の中をより良く変えるイノベーションにつながるのですから。未来を新しく創っていく、そういうパワフルで前向きなリーダーシップが、いままさに求められています。

※2017年度開設予定(設置構想中)。学部・学科名は仮称であり、計画内容は変更になる可能性があります。