東洋大学

日本の魅力を理解、説明する力が不可欠 東洋大学

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東洋大学は、1887年に明治の哲学者・井上円了によって創立された約130年の歴史を持つ総合大学だ。哲学を建学の理念とする唯一の大学であり、近年では駅伝や水泳、陸上などの活躍からスポーツが盛んな大学というイメージも強い。一方で、2014年度には、我が国の高等教育の国際競争力の向上を目的に、世界レベルの教育研究を行うトップ大学や国際化を牽引するグローバル大学を重点支援する、文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援 タイプB(グローバル化牽引型)」に採択され、2017年には新学部・学科の開設を構想するなど、グローバル人財育成の取り組みを加速している。そこで、ここでは 「世界で活躍できる人財の条件」と題し、グローバル社会で活躍するために必要な能力とは何か、どうしたら育てることができるのかを全12回の連載を通して明らかにしていく。
第2回は、東洋大学の国際地域学部国際観光学科長で、2017年度の国際観光学部の開設を構想する飯嶋好彦教授に、グローバル化する観光産業に求められる人材について聞いた。
東洋大学 教授・国際地域学部国際観光学科長 飯嶋好彦
東洋大学短期大学観光学科を経て現職。専門は経営学。観光産業を中心としたサービスマネジメント、サービスマーケティング、ホテルマネジメントなどの研究、教育に取り組む

―― 2015年は訪日外国人観光客が過去最高となり、2000万人に迫りました。

飯嶋 外国人観光客の急増は、近年の円安が最大の要因ですが、北は北海道から南は沖縄まで多彩な気候と自然に恵まれた環境や、クール・ジャパンで注目されるアニメやマンガを含む日本文化が、多くの外国人を引き付けています。また、ビザ緩和やLCC(格安航空会社)の台頭など、国境をまたぐ移動の障壁が下がった影響も大きいでしょう。

―― グローバル化する日本の観光の可能性をどう見ていますか。

飯嶋 人口減少で国内市場が縮小する日本にとって、約2兆円に及ぶ訪日外国人観光客の旅行消費市場は非常に魅力的です。ただし、観光の経済効果は、それだけにとどまらず、世界の人々に日本の産品への理解を深めてもらう絶好の機会にもなっています。たとえば、日本滞在中に温水洗浄便座を気に入った外国人が、土産品として持ち帰ったことから、温水洗浄便座が海外で普及するといった現象も起きています。観光が、製造業や農業などと密接に連携できれば、日本経済の成長にさらなる貢献ができるはずです。

―― 観光の可能性を引き出すには何が必要でしょうか。

飯嶋 観光と産業を結びつけるにはグランドデザインが重要で、そのために産官学連携を強化する必要があります。東洋大学では、経済産業省の「産学連携サービス経営人材育成事業」に採択された、観光の専門人材育成プログラム開発事業に、日本旅行業協会と連携して取り組んでいます。また、観光産業を専門とする教員を観光庁に派遣することも検討しています。本学が中心となって産官学連携による人材育成・交流を推進したいと考えています。

―― 観光のグローバル化という流れを受けて、観光業を担う人材にはどんな知識・能力が求められるでしょうか。

飯嶋 グローバル化する観光に携わる人材にとって最も大切なことは、逆説的ですが日本の文化、歴史、宗教観を熟知し、外国人に説明できるようになることだと思います。たとえば、中国や韓国が箸を縦に置くのに対して、日本は横に置くのはなぜでしょうか。さまざまな理由があるようですが、一説には、横に置いた箸が、食べ物のある神の領域の側との境を示すという説があります。だから箸の向こう側に「いただきます」と感謝を述べるのです。伝える手段としての語学力も確かに重要ですが、外国人観光客に何を伝えるのか、その内容を充実させるための日本文化の理解が何よりも大切で欠かせません。

―― 東洋大学は、グローバル化した観光業界にどのような貢献ができますか

飯嶋 「諸学の基礎は哲学にあり」の言葉を残した創立者の井上円了は、明治期に世界を周る視察旅行を3度敢行し、欧化に偏ることなく自分たちの拠って立つ文化を深く知り、本質を見極める目を持つことを重要視しました。そのようなバックグラウンドを持つ東洋大学が考えるグローバル化は、日本人としてのアイデンティティを明確にして、日本文化を大切にしながら、世界に対応していくことだと考えます。最近では、外資系航空会社や海外展開をしている日本のビジネス系ホテル会社に進み、グローバルに活躍しようとする卒業生も目立つようになってきました。東洋大学の国際観光学科では、国内の観光業界に進む卒業生の割合も約4割にのぼり、他大学の観光学科に比べ高い水準です。観光業は国内就業者の7割を占めるサービス業の集大成であり、サービス業全体の人材育成にも貢献できるでしょう。

―― 東洋大学で観光学を学ぶメリットはなんでしょうか。

飯嶋 東洋大学の観光学教育は、前回の東京五輪開催前年の1963年に短期大学観光科が設立されて以来、50年超の歴史があり、今日まで多くの卒業生を観光業界の第一線に輩出してきました。この人脈は本学の大きな財産です。現在の国際観光学科においても、観光業界で豊富な経験を積んだ実務家を中心に、観光学の研究をしてきた理論家を含む充実した教育スタッフを擁し、国内でも数少ない観光学の大学院教育まで提供できる体制を整えています。また、東洋大学は、訪日外国人観光客の約6割が訪れる日本最大の観光都市、東京にキャンパスがあります。観光は“現場”あっての学問ですから、非常に恵まれた環境なのです。しかも白山キャンパスのある文京区には、谷中・根津・千駄木など昔の下町風情が楽しめる観光エリアがあり、その魅力を地元と連携しながら観光資源の発掘を行っていくこともできます。訪日外国人観光客にとって魅力ある観光開発を進めるには、外国人観光客を引き付けられる穴場的なスポットの開発が欠かせません。今後は外国人の視点も重要性を増すことから、留学生の受け入れを拡大し、日本語教育の体制を充実させていきたいと考えています。

―― 2017年度、構想中の国際観光学部への発展によって飛躍が期待されます。

飯嶋 新学部の開設に向けて専任教員数は現在の17人から2倍程度に増員する予定です。また、行政などで観光政策の企画担当人材を育成する観光政策分野を充実させ、従来の観光産業との2分野体制にする計画です。観光産業分野は、旅行業務取扱管理者の資格取得や、ホスピタリティ業の現場実務担当者だけでなく、経営マネジメントができる人材育成も視野に入れます。忘れてならないのは、卒業生が国内外のどこで働くことになろうとも、日本人として生まれた限りは日本人であることがすべての出発点になることです。その拠り所となる日本人としてのアイデンティティを持った優れた人材を育て、まだまだ成長途上にある日本の観光業界を盛り上げ、日本のグローバル化を観光の側面から牽引していきたいと考えています。

※2017年度開設予定(設置構想中)。学部・学科名は仮称であり、計画内容は変更になる可能性があります。

TOPICS
第1回 グローバル社会で必要な能力
■G&S Global Advisors Inc.
 橘・フクシマ・咲江氏
■東洋大学 学長
 竹村牧男
元ヘッドハンターが語るグローバルで究極的に求められる「インテグリティ」とは。
第3回 プログラミング
■東洋大学情報連携学部等
設置推進委員会 委員長
坂村健
アイデアをかたちにするプログラミングスキルが、なぜ必須となっているのか。
第4回 コミュニケーション能力
■静山社 会長
 松岡佑子氏
■東洋大学 文学部 准教授
 大野寿子
ハリポタ翻訳者が語った異文化コミュニケーションで必要なこと。
第5回 グローバル化を牽引する大学の挑戦
■東洋大学 副学長
 髙橋一男
■東洋大学 国際地域学部
 教授 芦沢真五
アジアの大学生がダイナミックに動く時代のハブ大学を目指して。
第6回 リーダーシップ
■東洋大学 教授 今村肇
グローバル時代に求められるリーダー像「対話型インタラクティブ・リーダーシップ」。
第7回 異文化理解と自文化理解
■旭酒造 代表取締役社長
 桜井博志氏
■東洋大学 文学部 教授
 石田仁志
日本酒「獺祭」が世界で評価される理由には異文化と自文化への深い理解があった。
第8回 産業界が求める人財
■リクルートホールディングス リクルートワークス研究所 主幹研究員 豊田義博氏
■東洋大学 国際地域学部
 教授 芦沢真五
自らキャリアデザインを主導する「キャリア自律型人財」が求められるようになっている。
第9回 連携する力
■前グーグル日本法人名誉会長 村上憲郎氏
■東洋大学 情報連携学部等設置推進委員会 委員長
坂村健
ITの変遷を身をもって知る二人がIoTからビッグデータ、AIまでITのいまを語る。
第10回 観光プロデュース力
■小西美術工藝社
代表取締役社長
デービッド・アトキンソン氏
■東洋大学 国際地域学部
 准教授 矢ヶ崎紀子
マーケティングの活用で、日本を訪れる観光客の満足度向上へ。
第11回 イノベーション力
■ラクスル 代表取締役
 松本恭攝氏
■東洋大学 国際地域学部
 教授 荒巻俊也
世界で活躍できるイノベーティブな人財の条件とは。成長する企業トップの思考をひも解く。
第12回 哲学的思考
■東洋大学 学長 竹村牧男
物事を深く掘り下げて考える「哲学的思考」がグローバル社会を生き抜く大きな力になる。
お問い合わせ
東洋大学
https://www.toyo.ac.jp/