国際標準と特許のルールはどこに向かうのか K.I.T.虎ノ門大学院
標準必須特許問題の概観とその解決策の考察
では、千葉氏も言及した国際的な標準化機関によるSEPについてのルール改正は、どのような議論が展開されているのだろうか。金沢工業大学客員教授を務め経済産業省で長期にわたり標準化に携わってきた長野寿一氏が、最新事情などを解説した。
SEPについてルールはいかにあるべきか。国際標準化機関として、ISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)、ITU(国際電気通信連合)が規格や勧告といったルールを作成しているが、中でもSEPは数多くのルールに影響を与える上位概念のルールの1つに位置づけられる。「特殊なテーマなのですが、影響力が大きいだけに国際的な注目を集めている」と長野氏。「標準化を制する者がマーケットを制する」あるいは「ルールのルールを制するものが標準化を制する」ということか。
議論が始まったのは2012年末に開催されたITU特許ラウンドテーブルから。欧米の競争法当局がITUに関係者による会議の開催を促したという背景がある。ラウンドテーブルでは、SEPによる差し止めの是非やRANDの解釈などについて答申することとなっていたが、3年の議論を経てもまとまっていない。ラウンドテーブルでは、RANDでうたわれる非差別的の解釈やポートフォリオライセンシングの是非についても、SEPを多く持つ権利者陣営と実施者陣営に分かれて議論されているが両陣営の主張は平行線をたどっているという。
一方、長野氏は電気通信分野の特許について、特許権のうち有効なのは10に1つ以下という大手企業幹部のコメントなどを紹介。標準化機関と欧・日特許庁は、協力して不適切なSEPの数を減らし特許の質を高くしたいと考えていると解説した。最後に、こうした問題を「解決」する前にIoTやOSS(オープンソースソフトウェア)、新興諸国競争法当局のSEP知財ガイドラインへの対応といった新たな課題も浮かび上がっており、積極的、前向きな議論が望まれると指摘して講演を終えた。
ディスカッション&質疑応答
質疑応答とディスカッションは司会に平松幸男氏を迎えて行われた。
「IoTについて、知財のあるべき姿は」という質問に対し千葉氏は「IoTがバズワード的に使われ、さまざまな産業を巻き込んでいる。標準化団体がさまざまな方面で作られる中、どことどのようにライセンス処理すればいいかわかりにくくなっているのが現状。解決策はこれからの議論だが、1つのヒントとして競争法当局による解決があると思う」と考えを述べた。
平松氏は、IoTに限らず、あらゆる領域にICTが深く浸透している中で標準化に関する問題解決もより複雑化していると指摘。クラウドコンピューティングしかり、エネルギーのインターネット化とも言えるスマートグリッドも例外ではないと述べた。そこで、平松氏はスマートグリッドに関して質問を投げかけた。これに対し千葉氏は「スマートグリッドを知財や標準で考えると2つのレイヤー、すなわちインフラとその上でサービスを提供するユースケースに分けることができる。インフラは純粋な通信事業に近く、そこが1つの特許で止められると広範囲に影響が出るため慎重に対応しなくてはならない」と回答。長野氏は「2009年にアメリカがスマートグリッドを国を挙げての政策に掲げたことに呼応するように日本でも議論をはじめ、すでに実施段階に入っている日本発の標準化アイテムもある」ことを説明した。
ほかにも、各国の動向について、ワーリオ氏は「欧州連合司法裁判所が判断を示したことで、EUの領域ではこれに従ってライセンスがされる環境が担保されたのではないか」と指摘。一方、中国では特許権者も存在することから、実施者が極端に有利になるような方向には行かないだろうとの見方も示した。