セミナーレポート

― 産業・経済・金融・イノベーションの発信拠点としての未来都市東京の街づくり ―

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2020年に向けた、東京都心の変化の行方を探る「ビジネスエリアフォーラム2015」が2015年11月、港区の虎ノ門ヒルズで開かれた。五輪がもたらす経済効果や、急激な変貌を遂げている虎ノ門エリアの開発動向などについて、専門家らが意見を交換。東京の未来に関心を寄せる企業人ら約300人が耳を傾けた。
共催:森ビル、東洋経済新報社

開会挨拶

森ビル 執行役員 営業本部
オフィス事業部 統括部長
森 賢明

 森ビルの森賢明氏は「五輪は従来、発展途上の国におけるインフラ整備、都市建設のきっかけとなってきたが、2012年のロンドンでの開催は、成熟した都市がもう一段の発展を遂げる好機にもなることを示した」と指摘。「東京を世界一の都市にという目標を掲げる森ビルは、皆さんと一緒に東京をより良くする役割を担いたい」と語った。

基調講演
「東京オリンピック・パラリンピックがもたらす
経済効果」

東京大学大学院
経済学研究科 教授
伊藤 元重

 東京大学大学院教授の伊藤元重氏は、「以前の都市は、商業・オフィス・工業地域などに分業化されていたが、サービス産業・イノベーション中心の社会では、シナジーを高めるための集約・集中化が重要。都市は、住む、働く、学ぶ、楽しむといった要素が混ざり合う場に変わるでしょう」と語った。

 当面の日本は、2020年を目標にトレンドが設定されようとしている。政府の経済財政諮問会議などのメンバーも務める伊藤氏は、アベノミクスによる当面の経済動向を予測。「市場に出せない長期国債大量購入による金融緩和は、たとえてみれば、“ルビコン川を渡って後戻りできない”状況。中の水は急には温まらないが、株価・企業収益・雇用改善で、風呂釜は熱くなっている」と述べ、時間は必要だが、景気回復効果は出てくるという見方を示した。

 一方、「今後の労働供給減により、付加価値・生産性向上ができない企業は淘汰される」と指摘。石油価格下落で押し下げられていた物価も今後は上昇するとして、物価上昇率が名目金利を上回る「実質金利マイナス化」したときの資金の流れ、不動産市場の変化に注意を促した。

 さらに、グローバル対応・TPPについて伊藤氏は「国内市場が縮小する中で、経済を外に開くしかない」と強調。20年に2000万人の目標を前倒しで達成する勢いの訪日客がアジアを中心に増加する理由を、近い国、大きな国ほど貿易額が増す「グラビティ(重力)モデル」で説明し、「オールアジア市場に目を向けたビジネスが大切」と訴えた。

主催者講演
「東京を世界一の都市に
― 虎ノ門エリアにおける森ビルの街づくり」

森ビル 執行役員
都市開発本部 開発統括部
企画開発2部部長
御厨 宏靖

 平面的に過密な都市を、空と地下へ垂直に展開することでさまざまな都市問題の解決を目指す「立体緑園都市」の理念を掲げ、まちづくりを進めてきた森ビルの御厨宏靖氏は「東京は必ず世界一の都市になれると確信し、虎ノ門エリアの再開発に注力してきました」と述べ、国家戦略特区指定で加速している虎ノ門周辺の開発計画を説明した。

 虎ノ門エリアの開発は、新橋や霞が関エリアに比べて出遅れていたが、2014年に、オフィス・ホテル・住宅・カンファレンス施設・商業施設が入る複合用途の建物、虎ノ門ヒルズの誕生をきっかけに大きく変わり始めた。虎ノ門ヒルズの地下には、臨海部と都心部を結ぶ環状2号線が立体道路制度を活用して走っており、同エリアは、交通結節機能強化と国際的ビジネス拠点整備を進める「国家戦略特区」に指定された。環状2号線を走るBRT(バス高速輸送システム)などのバスターミナルや日比谷線新駅も計画されている。

 森ビルでは、虎ノ門ヒルズの南北でオフィス用途を中心とした虎ノ門一丁目プロジェクト、住宅用途を中心とした愛宕山周辺地区プロジェクトを計画。また、環状2号線新橋~虎ノ門間の地上部「新虎通り」沿道ではにぎわいのあるまちづくりにも取り組む。森ビルが計画するもの以外にも再開発計画が複数控える虎ノ門エリアの未来について、御厨氏は「国際色豊かな港区のポテンシャルに加え、さまざまな機能が複合する国際新都心へ、変貌を遂げようとしています」と語った。

ディスカッション、Q&A
「オリンピック・パラリンピックの開催で
東京はどう変わるのか?」

ニッセイ基礎研究所
金融研究部
不動産市場調査室長
竹内 一雅

 ニッセイ基礎研究所の竹内一雅氏は、不動産投資家によるアジア地域での投資見通しランキングでは、円安の影響もあって、東京が2014年、15年と続けて1位になっていることに触れ、「為替が円高になっても上位にとどまれる都市になる必要がある」と訴えた。また、不動産市況・環境の変化について概観。都心オフィスの空室率は、12年5月の約9.4%をピークに15年10月には約4.5%に半減。特に、変動が激しいAクラスビルの成約賃料は11年第3四半期の底から約8割も上昇した。東京都区部の大規模オフィスビル供給は12年に大量供給されて以降、建設現場の人手不足などによる遅れも重なって伸び悩んでいるが、19年に供給量が増える見込みを示した。

 続いて、会場から寄せられた質問に答える形でディスカッションが行われた。オフィス需要の見通しについて、竹内氏は「生産年齢人口が減るので楽観的には考えていない。競争力の低い物件は、オフィス一辺倒の機能を見直す必要も出てくるでしょう」と指摘。御厨氏は「需要を維持するには海外企業を誘致し、新しい企業を生み育てる必要があり、国際性豊かな、かつベンチャーを育てる環境づくりが重要です」と述べた。

 地方の人口減を受けた、今後の日本の方向性を問われた伊藤氏は「経済活動が東京に集中し地方は厳しいというゼロサムゲームの見方をされがちだが、東京が衰退すれば日本は立ち行かない。グローバルな視点で考えることが重要」と語った。

 最後に、竹内氏は「2020年の締め切り効果は大きいが、人口減がもたらす、その先の不動産市場の変化に備えることも大事」。伊藤氏は「1964年の東京五輪前後で日本の社会は変わった。20年も一つのエポックになるでしょう」と話した。御厨氏は「虎ノ門エリアは大きく変化します。20年にはそれが実感できるでしょう」と結んだ。

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