「哲学する」姿勢が世界を生き抜く力になる 東洋大学

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
東洋大学は、1887年に明治の哲学者・井上円了によって創立された約130年の歴史を持つ総合大学だ。哲学を建学の理念とする唯一の私立大学であり、近年では駅伝や水泳、陸上などの活躍からスポーツが盛んな大学というイメージも強い。2014年度には、我が国の高等教育の国際競争力の向上を目的に、世界レベルの教育研究を行うトップ大学や国際化を牽引するグローバル大学を重点支援する、文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援 タイプB(グローバル化牽引型)」に採択され、2017年には新学部・学科の開設を構想するなど、グローバル人財育成の取り組みを加速している。そこで、ここでは「世界で活躍できる人財の条件」と題し、グローバル社会で活躍するために必要な能力とは何か、どうやったら育てることができるのかを全12回の連載を通して明らかにしていく。
最終回となる今回は、東洋大学の伝統である哲学教育をテーマに、「哲学的思考」がなぜグローバル人財に必要なのかを学長の竹村牧男氏に語っていただいた。
東洋大学 学長 竹村牧男


―― 東洋大学は創立者・井上円了の「諸学の基礎は哲学にあり」の精神を受け継ぎ、哲学教育を展開してきました。

竹村 哲学者の井上円了は、明治期の近代化に取り組み始めた日本において、「哲学は新しい時代を迎えた日本人にとって生き方の根本となる」と考え、1887(明治20)年に東洋大学の前身となる私立哲学館を創立し、哲学教育の普及に努めました。その理念は、11学部・12研究科を擁する総合大学に発展した現代においても受け継がれています。哲学と言うと、カントやヘーゲルといった哲学者たちの思想を知識として学ぶイメージが強いかもしれませんが、本学ではいわゆる哲学者の養成ではなく、「哲学すること」=先入観や偏見にとらわれず物事の本質に迫って、自らの問題として深く考えることととらえ、その営みの下で主体的に社会の課題に取り組む人財の育成に全学で取り組んでいます。

―― それでは実際に、どのような形で哲学教育を展開されているのでしょう。

竹村 まず、基盤教育(いわゆる一般教養)の中に、「哲学・思想」の枠組みを設け、多くの東西哲学関係科目を置いて、一科目は必修としています。また、東洋大学には現在、文学部に哲学科や東洋思想文化学科など、哲学を専門とする学科があります。また、他学部においても、法学部は「法哲学」、経営学部は「経営哲学」、生命科学部は「生命倫理」、食環境科学部は「スポーツ哲学」、理工学部は「エンジニアのための哲学」といった、それぞれ専門領域に応じた哲学関連科目を充実させています。哲学は、人間が社会で生きていくうえで必要な世界観や人生観の根底を支えるものです。誰もが日常生活の出来事を通じて、何かしらの哲学的な営みをしている、と言えるでしょう。さらに、哲学関連科目に限らず、あらゆる授業において、深く物事を考える訓練をすることで、哲学の営みにつながっていると考えています。

―― 哲学的思考とは、どういうことを指すのでしょうか。

竹村 前にも申しましたように、常識、流行、先入観、偏見といったこれまで前提となっていたものを疑うことから始まり、それらの前提を超えて、物事の本質に迫って深く考えていくことといえます。こうした訓練をすることで、出会った問題に対して、ステレオタイプ的な見方をせず、自分自身の目で冷静に見て、意味や価値を判断する姿勢が養われます。学生に学んでほしいのは、「哲学」そのものというよりは、「哲学的思考」、つまり「哲学する」ことで、もう少し意訳すれば、イノベーティブに考えること、なのです。

―― 哲学的思考を学ぶことはグローバル人財にとってどんな意味を持つのでしょうか。

竹村 グローバル化した世界では、多様な価値観、文化、行動様式を持つ多くの人との出会いがあります。その時に、自分の持つ一定の価値観にとらわれ、異なる考えをいたずらに忌避してしまっては、これからの世界で生きていくことはできません。「哲学する」ことによって、自分が前提としてきた価値観に拘泥することなく、異なる価値観を受け入れ、理解して、良いと思うところは取り入れて、自分なりの考え方を築いてほしいのです。そうした姿勢は、ボーダレスな社会で生きていくための大きな力になるでしょう。

―― グローバルに活躍する日本の経営者には、哲学に関心を寄せる人も目立ちます。

竹村 日本には商いの道における「三方よし」のように、WIN-WINの関係構築やサステイナビリティを志向する理念が古くから存在します。また、現代では、企業のCSRや公共的使命が厳しく問い直されており、目先の利益にとらわれていては、やがて信用を失います。広い視野で物事をとらえ、守るべき企業の経営理念や経営者自身の価値観や生き方を重んじ、高度な倫理観や相手側への配慮を持ってビジネスを行うためには、哲学、あるいは哲学的思考が必要とされるのだと思います。

―― 「哲学する」ことを身に付けた東洋大学の学生には、どんな強みがあるのでしょうか。

竹村 卒業時アンケートでは、「哲学的思考が身に付いた」という答えが約7割に達し、本学の哲学教育はある程度、浸透しているととらえています。国公立と違って、私学には建学の理念があり、中でも井上円了という明治期のたぐいまれなる国際人であり、哲学者を創立者とする本学の教育は、哲学する営みなくしては語れません。物事の本質に迫って深く考える姿勢を身に付けた学生は、現代の地球社会にひそむ正解のない問題や、想定外の事態、前例のない問題等に対して、自分の頭で考え、判断し、自分なりの最適解を見出し、行動に移す力を培っています。そうした学生は、グローバルビジネスを展開する企業にとって、きっと有為な人財となるはずです。

―― 2017年度には白山キャンパスに国際学部、国際観光学部、文学部の国際文化コミュニケーション学科が、また、新たに開設される赤羽台キャンパス(東京都北区)には情報連携学部が新設されます。そこでのグローバル人財育成に向けた新たな取り組みを教えてください。

竹村 それぞれの新設学部での専門教育に加え、各分野に対応した哲学系の科目を用意し、また、基盤教育においても一層の充実を図っていきます。さらに、インターンシップやボランティアなど、フィールドに出て実践を通じて考えさせることで、哲学的思考の学びを推進したいと考えています。と同時に、新設学部では新しい学びの方法も積極的に導入します。たとえば、情報連携学部では自宅で従来の講義にあたる映像などを視聴し、教室ではディスカッションなどで課題発見、問題解決学習を行う反転授業(flipped classroom)や、少人数で課題に取り組みプレゼンテーションするグループ学習など、教員や仲間との対話の機会を増やすことで、相互に刺激しあい、自己の基軸を持ちつつ積極的に社会の改革に関与する人財を育成する環境を整えてまいります。

※2017年開設予定(設置構想中)。学部・学科名は仮称であり、計画内容は変更となる場合があります。