遠すぎる終着駅、「新函館北斗」が抱える課題 北海道新幹線、運賃や本数…逆風下の開業!

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渡島大野駅を通過する貨物列車。北海道新幹線は貨物列車と線路を共用するため速度が制限される

列車本数以上に逆風となりそうなのが、限定的な時間短縮効果だ。H5系やE5系は、盛岡以南では時速320kmで走行できるものの、整備新幹線区間の盛岡以北は規格上の制約で「260km」が上限となる。

さらに、青函トンネルを含む82kmの区間は、JR貨物と線路を共用するため、擦れ違った貨物列車が風圧で転覆しないよう、速度を140kmに落とす。

結果的に、東京-新函館北斗間は、航空機への競争力の目安とされる「4時間の壁」を切ることができなかった。しかも、所要時間短縮のためには停車駅を増やせない、というジレンマに挟まれ、強い要望が出ていた宇都宮停車も開業時点では実現しなかった。

競合する空路は手強い。羽田-函館間には日本航空、全日空などが1日8往復運航し、所要時間は1時間20分~1時間30分。便によっては約400人が乗れる大型の機材が就航している。価格も、正規運賃こそ3万6,000円~3万8,000円前後と新幹線の2万2,690円を大きく上回るものの、実勢価格に相当する割引運賃は、閑散期の早期割引なら現在でも1万5,000円台だ。しかも、函館空港は函館市の中心部まで約8km、車で20分ほどの近さに位置している。

北海道新幹線の料金は、他の新幹線路線に比べると割高だ。その原因もまた、青函トンネルにある。JR北海道はトンネルを所有する鉄道・運輸機構に使用料を払っているほか、線路部分の管理維持費用を負担しているが、1988年の開業から27年を経て、老朽化に伴う改修費用もかさんでいる。

突き詰めると、青函トンネルの利用、そしてJR貨物との「共存」が、北海道新幹線の利便性や運賃を圧迫する大きな要因となっている構図だ。しかし、費用対効果や、受益と負担の仕組みがどうなっているのか、料金体系をどう考えればよいのか、各種の公表データからは読み取りにくい。

「青函トンネルは誰のものか」。函館市の経済関係者は問いかける。

新幹線駅と「まちづくり」の距離

函館市のまちづくりという視点に立てば、最も大きな悩みは、新函館北斗駅の立地そのものにある。函館駅から北へ18km、駅舎は隣の北斗市の田園地帯に建つ。長く仮称が「新函館」とされてきた駅名が現駅名に落ち着いた経緯も、この事情による。

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函館駅と新函館北斗駅を結ぶ「はこだてライナー」用電車(写真:c6210/PIXTA)

市中心部にある函館駅と新函館北斗駅は函館本線で結ばれ、開業後は接続列車「はこだてライナー」が最速15分で往来する。首都圏でいえば、中央線快速で東京から新宿付近へ向かう感覚で、旅行者には大きな違和感がないかもしれない。しかし、地元の視点から新幹線開業をまちづくりにつなげようと考えれば、この距離感の克服は容易ではない。

程度の差はあれ、本連載で取り上げてきた新青森や上越妙高、新高岡といった駅も、同じ悩みに直面してきた。とはいえ、駅と市中心部の距離が、新青森-青森間と上越妙高-高田(上越市)がいずれも約4km、新高岡-高岡間が1.8kmであることと比べると、新函館北斗-函館間の18kmは別次元の距離といえる。

一方の北斗市も、悩みは函館市と変わらない。人口約4万8,000人の北斗市は、「平成の大合併」で、函館市に隣接する上磯、大野の2町が合併して生まれた。都市機能の集積は乏しく、函館市のベッドタウン的な色彩が強い。現在の北斗市役所は、旧上磯町役場の位置を引き継いだが、新函館北斗駅までの距離は11kmあり、鉄道での直結もしていない。

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