またその場合でも、サラリーマンであれば病気で休んだ4日目から最長1年6カ月の間、傷病手当金という制度で、通常の収入のおよそ3分の2が支給されます。そうした諸々の制度を利用すれば、民間保険会社の医療保険に入らなくても、払い込む保険料に相当する分をしっかり貯金していれば、あまり心配することはないと言っていいでしょう。
行動経済学でわかる保険に入りたい理由
合理的に考えれば、医療保険に入る必要性はあまりないと言えるのですが、相変わらず医療保険に入っている人は多いようです。それはいったい、どうしてなのでしょうか。
私は、行動経済学で考えると、割と簡単にその理由が説明できると思います。それは「メンタルアカウンティング」と言われる感覚です。メンタルアカウンティングというのは「心の会計」といって、同じおかねでも出所が異なることで感じ方が違ってくる現象のことを言います。
たとえば保険で支払われるとありがたいと思うのに、貯金を取り崩すのは何だか自分のおかねが減って、損をしたような気持ちになるということです。でも保険だって突然降ってわいたおかねというわけではなく、自分が長年にわたって払い込んでいた保険料から支払われているのですから、同じです。
さらにこんなデータもあります。公益財団法人「生命保険文化センター」が2013年に行った調査によれば、入院時の自己負担額の平均は22万7000円だそうです。仮に月に1万円程度の保険料を10年間払い続けたとすれば、120万円を払い込んだことになります。自己負担額を全部保険金でまかなったとしても、払い込んだ保険料のほうがはるかに多い金額となります。
ところが保険料として払い込んだおかねのことは記憶が薄れてしまい、給付される保険金はとてもありがたいけれど、自分の貯金を取り崩すのは損だ、という気持ちになってしまうのです。
同じ「生命保険文化センター」の調査では、5年以内に入院経験がある人の割合は15.2%ですから、実際に保険金が支払われる確率はあまり高くないことがわかります。その15.2%に自分が該当してしまったらどうするのだ、という人がいるかもしれませんが、それにしても自己負担の額は、前述の調査では22~23万円です。
10年間にわたって保険料を払い続けて120万円にもなるのであれば、その分を医療保険の保険料で払い込むのではなく、貯金しておいて、そこからおろせばいいだけのことです。
人間の心理とは面白いもので、知らず知らずのうちに不合理な行動をすることで損をしているというケースがよくあります。保険のように長期にわたって払い込む性格のものは積もり積もって大きな金額になりますから、特に気をつける必要があります。自分にとって必要かどうか、はたして損にならないかどうかを、しっかりと考えておくべきでしょう。
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