山手線「新型車両」は、なぜいま必要だったか 車両製造の都合など4つの理由から推察!

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JR東日本に限らず、鉄道会社の多くは近々寿命を迎える車両に対して最小限の投資しか行わない傾向がある。日常的な検査はもちろんおざなりにはしないものの、法定検査のうち、在来線の電車では8年に1回実施される全般検査の際、車体に生じた凹みをパテで埋めるといった作業を極力省く。だが、E231系500番台の場合は車体の傷はきれいに補修されている。

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ホームドア設置のために姿を消した6扉車(写真:tarousite/PIXTA)

それどころか、山手線の各駅で導入が決定したホームドアに備え、2010年2月からはTASC(Train Automatic Stop Control system)と呼ばれる定位置停止装置やホームドア車上装置を取り付け、浜松町-西日暮里間で京浜東北線の電車が山手線の線路に乗り入れるケースも想定して2両の6扉車の取り替えも実施された。

これだけ大規模な投資を実施してから10年も使用しないうちに置き換えというのはJR東日本が太っ腹であるか、ほかに考えがあるからであろう。

どうやら後者と推察される事情を説明すると、E235系の投入で山手線から撤退したE231系500番台1編成は解体されず、中央・総武線緩行に移動している。移動したE231系500番台の写真を見るとTASCやホームドア車上装置は取り付けられたままだ。中央・総武線緩行の各駅のホームドアの設置計画は発表されてはいないけれども(新小岩駅への設置計画は総武線快速用)、近々使用を開始するのであればE231系500番台への投資は無駄にはならない。

ホームドア対応には時期外れ

E231系500番台の活用方法はわかったが、根本的な疑問は未解決のままだ。JR東日本の資料によると、E235系の導入は2010年には決定していたらしい。「JR EAST Technical Review No.33 - Autumn 2010」に掲載された「ホームドア導入に向けた研究開発」(齋藤修、小山田美和、志摩修治)の37ページにある図を見ると、「E233、235系停車時車両ドア位置にも対応している」と記されているからである。

ちなみにこの図とは、浜松町-西日暮里間の西日暮里寄りで先頭車の一番前の両引戸向けのホームドアについて説明したものだ。E231系500番台と京浜東北線のE233系電車とを比べると、運転士後方のクラッシャブルゾーンの有無によって運転室すぐ後ろの両引戸の位置が異なる。クラッシャブルゾーンのないE231系500番台の両引戸とクラッシャブルゾーン付きのE233系の両引戸とは約1.4mずれており、ホームドアの開口部は双方の車両に対応して他の場所よりも0.9m広い2.9mとなっているのだ。

開口部2.9mのホームドアは実際に設置されたものの、やはりJR東日本としては他のホームドアの開口部と同様の寸法にそろえたかったのかもしれない。そのためにはE231系500番台には早々にお引き取り願いたい。というよりも、E231系500番台にTASCやホームドア車上装置を取り付けたり、ホームドアの開口部の寸法を変えたりといった手間や費用をかけるくらいならば、恵比寿駅で山手線初のホームドアが使用開始となった2010年6月に間に合うようにE235系を投入すべきであった。

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