ゴールが明確なら困難もチャンスに シベール特別顧問・熊谷眞一氏③

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くまがい・しんいち 1941年生まれ。高校卒業後、仙台や東京などでの修業を経て、66年に洋菓子の店シベールを創業。70年有限会社シベールを設立し社長に就任(81年株式会社化)。2010年会長。11年特別顧問。公益財団法人弦地域文化支援財団の代表理事も務める。

ゴールを明確に決め、周囲に堂々と宣言すること。それが経営にとっては大切です。ゴールが明確であれば、たとえ困難に遭遇しても、むしろそれをチャンスに変えることができる。困り事はビジネスの宝庫なのです。

シベールに事業拡大をもたらしたラスクの通販も、目の前の困難な状況を打破しようと考え抜いた末に行き着いたもの。初めにラスクありき、ではなかった。

当時、シベールは洋菓子店として山形県でトップクラスになっていました。そうなると、お客様から「そろそろ手仕舞いにしたらどうか」という声が聞かれるようになりました。これ以上店舗を増やしたら、味が落ちるというのです。「校長先生を見返す」という目標は達成したと思いましたが、企業家として行けるところまで行きたいという野心が募っていました。課題だった従業員の待遇改善のためにも、会社を大きくする必要がありました。当時の従業員にはかなり負担をかけたと、今でも反省しています。

経営者のゴールは詩人の詩と同じ

事業は拡大したいが、山形県では店舗を増やせない。ジレンマを克服するために思いついたのが通販でした。これなら地元のお客様にも文句を言われないで済みます。そのとき初めて「日本全体」が私の視野に入りました。そして東京の大学に通っていた娘やその友達に評判がよかった、ラスクを商品に選んだのです。

 ところが、ラスクの通販をやろうと決めたはいいが、宣伝費をかける余裕がありません。どうやって売ろうかと悩みました。そうしたある日、店舗の傍らにあった桜を何げなく見ていると、全体は揺れていないのに、一部の葉だけがそよ風で揺れているのに気がつきました。しかも、そこだけ枝の奥深くまで葉が揺れているのです。「そうか。そよ風マーケティングだ」とピンときました。

急いで事務所に帰り、異業種交流会で名刺交換した相手100人に、「先日のお話を参考にこんな商品を作りました」というあいさつを添えてサンプルを送りました。何となく自分も商品開発にかかわったような気になったのか、何人かはすぐに注文してくれ、周りにも紹介してくれました。そうして少しずつ顧客が増えていったのです。ゴールを設定し、その実現を妨げている困難をどう克服するかと考えていたからこそ、日常の情景からもヒントを得ることができたのだと思います。

経営者がゴールを思い描くこと。それは詩人が詩を書くことと同じだと、私は思っています。

週刊東洋経済編集部
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