大量未配達、日本郵便に「お咎めナシ」のワケ 配達局員個人の賠償責任、刑事責任は?

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「仮に、一般企業と同じような損害賠償責任を日本郵便に負わせると、リスクに備えるため、料金を引き上げたり、配達局員がもっと慎重に配達業務をせざるを得なくなります。

郵便事業は『なるべく安い料金で、あまねく、公平に提供すること』(郵便法1条)を目的としています。もし、リスクに備えて料金を値上げしたり、配達に時間がかかるようになると、その目的を果たせなくなるおそれがあります。そのため、民営化された現在も、郵便事業は、損害賠償を一部免責されているわけです」

では、日本郵便への損害賠償請求ができないとしても、配達局員個人に対して、賠償を請求できないのだろうか?

理論的には可能だが……

「この点については、民営化によって、個人を訴えることが理論的には可能となりました。しかし、配達局員個人の賠償責任を認めると、配達局員という職業のリスクが高まって、結局は、郵便法1条の趣旨に反することになります。配達局員個人に対し損害賠償を請求できるかどうかは、解釈が分かれるでしょう」

日本郵便四国支社は「まだ警察に相談している段階だが、郵便法77条に違反するとして被害届を出す可能性がある」と話している。郵便法77条とは、どのような規定なのか?

「郵便法77条は、『郵便物を開く事の罪』として、『会社の取扱中に係る郵便物を正当の事由なく開き、き損し、隠匿し、放棄し、又は受取人でない者に交付した者は、これを3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。ただし、刑法の罪に触れるときは、その行為者は、同法の罪と比較して、重きに従つて処断する』と規定しています。

今回のケースは、この規定の『隠匿し』という部分にあたると考えられます。先に述べたように、配達局員個人の賠償責任は解釈上問題があり得ますが、刑事責任については、負う場合があります」

濵門弁護士はこのように述べていた。

浜門 俊也(はまかど・としや)弁護士
当職は、当たり前のことを当たり前のように処理できる基本に忠実な力、すなわち「基本力(きほんちから)」こそ、法曹に求められる最も重要な力だと考えております。依頼者の「義」にお応えします。
事務所名:東京新生法律事務所

 

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