トヨタ・豊田章男社長はコミュの達人だった あのメガネに隠された共感系リーダーの秘密

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「くさい」セリフを言い切る度胸もすごいが、何よりすごいのは、そのボディランゲージだ。ややぎこちなさは残るものの、大きく手を広げたり、動かしながら、自分の思いを伝えようとする。実はこの「手」の動き、日本人のプレゼンにとって、「鬼門」ともいえるもので、ほとんどの日本人が、手を用いてプレゼンをすることができない。筆者のプレゼンコーチング経験の中でも、この関門を超えたトップはほんの一握りだ。たまに、使えたとしても、ほんの少し、自分の体から10センチか20センチ離すぐらいの動きまで。

人は手を身体から離さないように、なるべく近くにおいておくことで、守られているという安心感を覚える。手を大きくクジャクのように広げるという行為は、自分の胸の内を明かし、聞き手に心を委ねるというサインであるが、アメリカの政治家や経営者のようにそれができるようになるのは、信じられないぐらいの度胸と勇気がいることなのだ。

当時、筆者はとある自動車会社の幹部のトレーニングに関わっていたが、その社内では、豊田氏のプレゼンについて、「あれはちょっと、やりすぎ」、「日本人にはあわない」と否定的なとらえ方をする人も多かった。そんな空気感の中での、まさに「捨て身」のプレゼンだったのだ。

しかし今や、世界を相手にする自動車業界では、豊田氏のスタイルがグローバルスタンダード。演壇に張り付き、原稿をただ読み上げるだけの形から、歩きながら、ジェスチャーを交えて語る形が主流になりつつある。

経営者は舞台に立つ役者のように、時に、「リーダーとしての自分」を演じ切らねばならない場面がある。厳しさを伝える、興奮を伝える、夢を伝える……。まさに、舞台に立ち、演じ切る覚悟が求められるわけだが、豊田氏がその自分の役回りに気づいた「悟りの瞬間」が実はあった。 

ヒミツ②ストーリーを語り「心からの思い」を伝える

豊田氏は大学を卒業後、投資銀行に勤務後、父、章一郎氏から、「お前を部下にしたい上司はいないぞ」と言われつつ、トヨタに入社した。「ボンボンで大丈夫か」と先入観を持って見られることに悩み続けたという。「自分は何者なのか」「ミッションは何か」を問い続ける中で、その「天啓」は社長就任の約8か月後の2010年の2月に訪れた。大規模なリコール問題に対する厳しい世論を受け、アメリカ議会の公聴会で証言台に立った。突き刺さるような視線にさらされながら、必死で答弁する中で、「入社して初めて、トヨタの役に立てるかもしれない」と思ったという。

公聴会後、人生初のテレビ生放送で、ラリー・キングという有名テレビホストのインタビューを受けた。最後に、彼から「どんな車に乗っているの?」と聞かれ、思わず、「いろいろな車に乗っています。車が大好きですから」と答えたところ、キング氏から、「この後、うまくいくといいね」と笑顔で声をかけられた。「自分の思いが伝わった」と実感した瞬間だった、という。「自らの思いを、“魂をこめて”伝える事」の価値に、この時、初めて気づいたのだ。

この「悟り」については、本人が自らの口で、熱く語っている映像がある。是非、ご覧いただきたい。

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