「一億総活躍」社会を実現する具体的処方箋 省力、学習、公正の3つが課題解決のカギ

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こうした状況を打開するには、生産性を高めて労働者として省力化できるようにする取り組みが有効だ。同じ付加価値を上げるにも、より短い労働時間で達成するような工夫も、これに含まれる。ICTや人工知能の活用、ワーク・ライフ・バランスのさらなる促進などを含めて、生産性の向上に地道に官民を挙げて取り組んでいく。

このように、われわれがそれぞれの立場で工夫しながら努力の力点を改めて、努力が報われるような形にすることが活路を開くだろう。労働時間や労力さえ注ぎ込めば何とかなるのではなく、いかに時間や能力に余裕を持たせて、日々の仕事や生活を営むか、という方向に向かう時期が来ている。

控除を見直し所得再分配機能を回復

2つ目は「一億総学習」。ライフステージに合わせて、必要な学習が十分にできる環境を整えることが求められる。幼い子どもたちには、幼児教育を充実させることで、人格形成にも資する。グローバル化もにらんだ高等教育の改革も待ったなしである。そして社会人のスキルアップもまた必要であり、高齢者には老後の生きがいとしての学習の場が求められている。

一億皆で学びながらさらにスキルアップしていくことで、充実した生活を送ることにつながろう。他方で、教育費の負担への不安が少子化の一因ともなっているから、教育費の負担に関して不安を断ち切る取り組みも合わせて必要である。

3点目に「一億総公正」。要件が満たされないために救うべき人が救われなかったり、給付しなくても十分生活できる人に給付を出しているような面が、わが国の制度にはある。それを改める視点で、社会保障給付のあり方を見直す。所得税制の中でも控除の見直しを通じて所得再分配機能を回復させる(詳細は本連載の拙稿を参照されたい)。必要に応じて、こうした中から施策のための財源の捻出も考えられる。

これらを総合的に行うことで、「一億総活躍社会」の実現に近づけられるだろう。言うは易し行うは難し。しかし、批判だけして何も実行しないのでは、現状は打開できない。早期に解決すべき課題も多いだけに、拙速にならないようにしつつ的確に政策を講じる判断が問われる。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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