一人っ子廃止ふざけるな!今の中国人の本音 "大本営発表"に従わない世代がやってきた

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日本も1995年に生産年齢人口がピークアウトしたあと、人口オーナスの時代に入り、2008年ごろから人口が減少した。ひとたび人口オーナスに転じれば、政府がどんな対策を講じても、再び人口を増やすことはそう簡単なことではない。フランスなど出生率が再びアップした国もあるが、よほど効果的な奨励策を打ち出さないかぎり難しい。

中国では多くの夫婦が共働きで、育児施設は日本より充実しており、祖父母が子育てを手伝うなどの相互扶助もよく行われている。しかし、教育費は年々増大しており、政策を変えたからといって、「人口増」に結びつくモチベーションは少ない。

それは、出産・育児が、個人の生活や生き方、人生に直結するプライベートな問題であるからだ。

一人っ子政策を実施し始めた1980年代は「全体主義」の下で政府が人民の生活に深く関与し、コントロールすることができた。「右向け右」に従わないことなど、考えられない社会だった。だが、この36年の間に中国社会は大きく変容してしまった。「子どもは宝」「後継ぎが何より大事」だという伝統的な概念を持つ人は徐々に少なくなり、経済成長とともに、生き方が多様化し、個人のライフスタイルが優先されるようになったのだ。

「新人類」はそうそう従わない

2人目の子どもに関しては、前述したような経済的な事情が大きいが、2人目を産むどころか、子どもは1人も要らない、夫婦2人だけで自由に暮らしたいという「DINKS」を選択する人や、そもそも結婚自体を望まない人も増えてきた。私が取材した上海の男性(30歳)も、「結婚にはまったく興味がない。ずっと自分の好きなことをして暮らしたい。好きな女性とは好きなときに一緒にいればいい」と話していたが、このような個人主義の考え方の人も増えてきているのだ。ある面では、日本に近づいているのである。

現在の一人っ子の最高年齢は35歳。「小皇帝」と呼ばれた最初の世代で、20~35歳までの「80后、90后(80年代生まれ、90年代生まれ)」は、約4億人いるといわれている。両親から大事に育てられてきた、いわば中国の“新人類”だ。

一般的にこの世代は中国で「自己主張が強く」「自分の才能と個性を重視し」「生まれたときから何でも持っていて」「ネットを通じて世界中の情報に精通しており」「わがままで自己主張が強い」と形容されてきた。もちろん、すべての人がこのようなタイプであるはずはないが、少なくとも、それまでの世代に比べて豊かに育てられてきた彼らが、政府の“大本営発表”に素直に従うとは思えない。

むろん、内陸部や農村では今回の政策転換を喜んでいる人もいないことはない。「子ども1人だと私たちの老後が心配だから」といって、これを機に2人目が欲しいという人だっているだろう。しかし、この36年間で社会がここまで変化してしまうとは、政府も予測できなかったに違いない。

中国の人口減少は、ただの国内問題だけでなく、世界経済にも多大な影響を与える重大な問題だ。だが、その未来を担っているのは、ライフスタイルが大きく変わったこの4億人の若者の肩にかかっている。

中島 恵 ジャーナリスト

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なかじま けい / Kei Nakajima

山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経て、フリ―に。著書に『なぜ中国人は財布を持たないのか』『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(すべて日本経済新聞出版社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『「爆買い後」、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)などがある。

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