サイバー藤田社長"リスク覚悟"の動画勝負 業績絶好調でも、積極投資に臨む理由とは?

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サイバーエージェントの試算によると、動画広告市場は現在の500億円から2020年には4倍の2000億円に拡大する見通しで、先行者利益を拡大したい考えだ。

実は、サイバーエージェントが将来の成長を見据えて、敢えて「踊り場」に足を留めるのは、これが初めてのことではない。2013年9月期には、スマホ関連事業の強化に向けて投資を先行させた結果、営業減益になっている。ただ、その投資は、足元の広告やゲームの急成長に結実している。さらにさかのぼると、2007年から2009年にかけてもブログなどの事業立ち上げに投資を重ねた結果、2008年、2009年と連続減益になったこともある。

2016年9月期に注力する動画事業では、スマホで無料テレビを視聴するイメージの「Abema(アベマ)TV」をテレビ朝日との合弁会社を通じて展開するほか、個人や中小事業者らが動画を配信できるプラットフォーム「Ameba FRESH!(アメーバフレッシュ)」の開発を進めている。早ければ年内にもサービスが始まる見通しだ。

ユーザーを中毒状態にできるか?

特にアベマTVは、藤田社長が「僕自身、ここにいちばん時間を割いている」と述べるほど力を入れる事業だ。収益モデルは広告だが、ユーチューブのように動画を再生する際に広告が入るのではなく、テレビのように決まった時間に広告が流れるという。動画サービスとしての方向性も「アベマTVはツイッターやフェイスブックのように、アプリを開くと流れている映像をだらだらと受身で見るような形」と、見たい番組を探すオンデマンド型の動画配信とは異なるようだ。

アベマTVは月間10億円~15億円の広告収入があれば、損益分岐点を超える見通しだが、コンテンツ調達の負担が大きい。1年で最大100億円程度の費用がかかる可能性があり、しかも継続的な投資が必要になる。2016年9月期は、下期からコンテンツ獲得で50億円、マーケティング費用で20億円がかかるため、下期以降の利益水準を押し下げる見通しだ。

藤田社長はこうした不安要因について、「今までやってきた事業の中でも、相当にリスクが高い。原価がかかる事業はこれまで未経験だ」と分析してみせた。と同時に、「われわれはスマホのサービスについて、知り尽くしているつもりだ。自然とアプリを開いて見てしまうなど、ユーザーの手を『中毒』にすることが大事だ。成功すると言い切ることはできないが、その確度は高い」と自信ものぞかせた。

営業減益を見込むほどの投資規模で、未経験の事業領域に踏み込む勇気が吉と出るか、凶と出るか。ネットのサービスを成功させるために重要な「初速」をどれほど出せるのかが注目される。

山田 泰弘 東洋経済 記者

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やまだ やすひろ / Yasuhiro Yamada

新聞社の支局と経済、文化、社会部勤務を経て、2014年に東洋経済新報社入社。IT・Web関連業界を担当後、2016年10月に東洋経済オンライン編集部、2017年10月から会社四季報オンライン編集部。デジタル時代におけるメディアの変容と今後のあり方に関心がある。アメリカ文学、ブラジル音楽などを愛好

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