日本人はいま、絶滅の危機にさらされている 不妊治療の現場で30年、ベテラン医師の見解

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詠田由美(ながた・ゆみ)●アイブイエフ詠田クリニック院長。1980年福岡大学医学部卒業後、国内外で産婦人科学、生殖内分泌学、内視鏡手術を学ぶ。1985年より同医学部で体外受精研究を始め、95年同大学病院不妊治療グループチーフ。1999年に開業。「原因を把握したうえで治療すること」をモットーに、1万人以上の不妊症患者に向き合ってきた。医学博士、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本産婦人科学会認定医、アメリカ生殖医学会生殖外科認定医。

――詠田先生は30年以上不妊治療に関わり、1999年に開院されたとのこと。患者さんに変化はありますか?

開業したばかりの頃は、結婚から2~3年で子どもができないと悩む20代の患者さんの来院が大半でした。しかし、2000年半ばから結婚後も働き続けている30代の方が多くなり、今は40代の方も来られます。明らかに年齢層が上がっていますね。

――女性は年齢を重ねると妊娠しにくくなると聞きますが、実際はどのような意識を持っておくべきでしょう?

女性の体内には、生まれる前から多くの卵子があり、その後に新しく作られることはありません。初経から排卵が始まり、排卵する卵子がなくなる日を閉経といい、閉経を迎えると妊娠できません。平均的な初経年齢は12歳、閉経は50歳です。

では閉経まで妊娠できるかというと、そうではない。長い間、体内にいた卵子は老化しており、32歳から妊娠率が落ちます。35歳以上で出産する人は高齢出産(いわゆるマル高)とされ、全体の1割ほど。そのあたりから染色体異常の率も増加します。

さらに37歳からは染色体異常に起因した流産率がぐんと上がり、妊娠しても出産まで至らないケースが増加します。産婦人科としてお伝えする妊娠のリミットは37歳。43歳以上になると、まず妊娠は難しいと考えたほうがいいでしょう。

女性の体は何百年も変わっていない

――最近は40歳代で出産したという芸能人がいて、40代でも簡単に妊娠できるという誤解が広まっているように感じます。

仕事や趣味を優先して、結婚や出産を後回しにしているうちに30代後半に。それからいざ子どもを望んでも妊娠できずに、慌てて来院されるケースが増えています。若いうちから正しい知識を持つことが重要です。

――不妊症患者が増えているということは、女性の体が変わってきたということでしょうか?

いえ、女性の体は何百年も変わっていません。変わったのは、初経の年齢が16歳から12歳に早まったことくらい。

西暦1000年頃に書かれた「源氏物語」でも、大奥のあった江戸時代1600年代でも、様々な書物から女性の出産について30代以降は危険が伴うものとされ、閉経は50歳頃と記されています。もちろん昔は平均寿命が短く、閉経前に生涯を終える人も多かったのですが。

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