日本の外交政策は国益につながってきたのか

北岡伸一著「門戸開放政策と日本」を読む

欧米から一歩遅れて国際社会に登場した日本の外交政策を振り返る(写真:minack/PIXTA)

知的誠実さにあふれた第一級の外交史

 
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今日本で発言がつねに注目されている人物の一人に北岡伸一氏がいる。この新著は同氏の専門とする領域の論集である。

米国の理念による国際社会とのかかわりと、欧米から一歩遅れて国際社会に登場した日本の国際秩序へのかかわりを、公文書や関係者の発言にあたうかぎり触れながら、くっきりと描き出している。通底するのは、どの国の利益にもつながる交易の自由としての「門戸開放」である。

国益とは自国の安全保障と経済的利益の確保が中心だが、それは単にリアリズムだけではなく、理念(時には情念)によって支えられる。しかし理念は往々にして、現実と衝突する。また歴史に登場するさまざまな国家や個人というアクターは、自己利益と自らが属する組織の利益を優先する。本書に「啓発された自己利益か」「むきだしの自己利益か」とあるが、歴史にはエゴイズムとしての後者の優先が多々見られる。

また国際問題に限らず国内問題でも同様だが、よくないこと、不快なことがあるからといって、それを否定しても、思った結果につながらないのはいうまでもない。

本書に、著者の学者としての方向を決めた事由(「あとがき」による)の一つといってよい、ジョン・マクマリという戦前の米国の外交官が登場する。マクマリは日本の真珠湾攻撃に先立つこと6年、1935年に大略、次のようなメモを記していたという。

1.日本を敗北させても、極東問題から日本を排除できない。2.仮に日本を排除してもソ連の進出を招くだけで、事態はむしろ悪化する。3.しかも中国が日本から救われたことに感謝して親米的になることはありえず、むしろ勢力を増大させた米国に抵抗するだろう。

驚くべき先見であり、予言である。詳しくは本書を読んで欲しい。

日本にも本書で紹介されている吉野作造、清沢洌、石橋湛山らの知見が存在した。そしてその発言の多くはマクマリの指摘と同様に、その状況の中での支配的発言たりえなかった。しかし本書のように、歴史家の手により彼らの知見はよみがえり、時代を超えて影響を与える。

また短い岸信介論、吉田茂論も本書にあるが、著者の指摘は、二人の「政治思想」が現代を貫いていることを明らかにしている。内容は国の経済である。

政治家に限らない。学者もまた何よりも知的誠実さが求められる。名著とは、読む者の能力に応じた理解ができる本ということになるが、外交には門外漢の評者にも、本書が知的誠実さにあふれた第一級の外交史であることが感得できた。

著者
北岡 伸一(きたおか・しんいち)
国際協力機構理事長。東京大学名誉教授、政治学者。1948年生まれ。東大大学院法学政治学研究科博士課程修了。法学博士。立教大学教授、東大教授、国連大使、国際大学学長、政策研究大学院大学教授などを経る。著書に『自民党政権党の38年』など。
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