安倍首相の「女性活用促進」は中途半端過ぎる 大企業の義務は目標の設定と公表だけ

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安倍首相が本気で「ウィメノミクス」に取り組むつもりだったなら、彼はまず差別を禁止する既存の法律の徹底に当たっただろう。労働基準法には、「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」と定められている。

また、男女雇用機会均等法は、婚姻、妊娠、または出産を理由とする解雇や降格を禁止し、後の改正で昇進における性別を理由とした直接的または間接的差別も禁止している。

いずれも徹底されていない。日本は米国と違い、企業を調査し、法律に抵触している企業に対して訴訟を起こすことを責務とする政府機関がなく、何年もかかる訴訟に被害者自身が自腹を切って、救済を求めなければならない。法律を破った企業に対する罰則もない。また米国とは異なり、日本では労働法に関する集団訴訟もできない。

雇用と賃金の二重差別

女性は賃金に関しては二重に差別を受ける。非正社員として、そして女性としてだ。低賃金の非正社員の割合は、男性労働者だと21%であるのに対し、女性労働者では56%にもなる。女性労働者の大半は、男性の正社員と同一業務でも低い賃金で働くことになる。

女性の正社員も一般的に男性の同僚より給与水準が低い。その差は年齢が上がるにつれ拡大する。大卒女性でさえ、給与がピークとなる50~54歳時点では同年代の男性より給与が22%低い。国際労働機関によれば、08年の日本の女性の平均給与は男性の68%だった。同時期における米国、英国は同80%、フランスは同88%だった。

雇用機会均等法で一般職と総合職の二つのキャリアコースができた。総合職であれば、管理職に昇進しなくとも45歳時点での給与は一般職の2.5倍近い水準となる。

経済産業省は今年、22人の女性を総合職で採用している。これはエリートコースの新規採用の30%に当たる。だが、安全保障関連法案が真の優先事項だった安倍首相は、難しい経済改革に政治資本を費やすことには後ろ向きだ。企業からの政治的支援を必要とする安倍首相は、企業が嫌がる要求を本気で突き付けるつもりなどないのだ。

週刊東洋経済10月3日号

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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