政権が持つか、「急がば回れ」路線

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政権が持つか、「急がば回れ」路線

野田首相は新年、「難題に本腰を入れる」(1日付の年頭所感)、「いままでで一番苦しい総理大臣」(3日の県立船橋高同窓会)、「チャーチル元首相の『ネバー・ネバー・ネバー・ネバー・ギブアップ』の言葉のように」(4日の年頭記者会見)、「政局よりも大局で」(5日の経済団体の新年パーティー)と「野田語」を連発した。6日の時事通信社の新年互礼会では一般参加者の前で壇上から谷垣自民党総裁に「消費税問題で協議参加を」と呼びかけ、続いて登壇した谷垣総裁が「大連立の提唱では」と言い返す一幕もあった。

「ニュー野田」に変身か、という予想もあった。だが、新年の発言からは、通常国会を前に攻撃型への傾斜が目立つ程度で、回り道に見えても着実に結果を出す「実行する政治」という基本路線は変わらず、今後も熟慮・周到型の「野田流」を続ける考えなのだろう。
 
 それで衆参ねじれ、党内対立、8ヵ月余の残り任期という三つの壁を越え、目標の消費税増税準備法案を実現できるかどうか。

普通に考えれば、大連立や政界再編、総選挙なしでは困難だ。だが、野田首相は「不退転の覚悟で」と言い続ける。

となると、大連立や政界再編に乗り出す、解散と法案成立をセットにした「話し合い解散」を仕掛ける、一点突破を狙って玉砕戦法で突っ走る、という3つの道が考えられるが、もう1つ、世論の動向を見た上で、ぎりぎりのところで一度、撤退し、仕切り直しで再挑戦する選択肢もある。

いま増税準備法案を用意しているが、もともと実際の増税実施には総選挙後、施行のための法案の成立が必要だ。それも普通に考えれば、勝負は2013年夏の参院選後であろう。準備法案は、09年成立の改正所得税法による拘束、増税に対する国民の理解と支持、日本国債の信用不安回避、財務省の協力確保などが目的だが、その効果が出たと思えば、先送りしても問題は生じない。

国民が支持するなら、一気に13年秋に増税法案を仕上げ、14年4月施行に持ち込むことも不可能ではない。「したたかなどじょう」は、もしかすると「急がば回れ」の道も視野に入れているかもしれないが、政権がそこまで持つかどうか。

(撮影:尾形文繁)


塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数

塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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