JR九州上場と新国立競技場問題を考える 国民の税金を勝手に使わせてはならない

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この「とりまとめ」によれば、先ほどの文章に続いて、「JR九州の純資産の半分以上を占める経営安定基金が政府の規制の下にあることは、ほかの上場企業には見られない特殊な形態であり、投資家としても資産の評価が困難である」ともあります。このように純資産に関しても触れていますが、これとて、それを「もらって」かまわないという根拠にはなりません。一般の企業にある、負債や純資産の勘定科目に振り替えればいいだけの話で、「もらう」ということを正当化するものでないことは明らかでしょう。

JR九州が、上場に際しもらった基金をどのように使うかという点にも注意が必要です。最も大きなものは、九州新幹線の平成28年度以降の施設使用料を20年分ほど一括前払いすること(2205億円)。2つめは、無利子借入金の返済(800億円)。3つめは、鉄道事業関連の設備投資(872億円)という用途に使われるとのことです。

税金で借金を返済、利益をかさ上げするJR九州

整備新幹線は「上下分離方式」といって、新幹線の運行や施設の維持管理はJRが行っていますが、線路などの施設の建設や保有に関しては、(独)鉄道・運輸機構が保有しています。つまり、JRは鉄道・運輸機構から「線路などの施設を借りている」という形になっているのです。

その賃貸料を20年分ほど前払いするために、受け取った基金のうち2205億円が使われるということです。こうすれば、今まで払ってきた賃料がいらなくなるわけですから、当然、利益がかさ上げされます。もう少し詳しく言うと、事業費用がそれだけ減るわけですから、営業利益がその分20年間かさ上げされるということです。先に指摘したように、それでなくとも低い営業利益率もかさ上げされるわけですから、JR九州にはとても都合がいいわけです。

本来なら国民から預かっているおカネを、事業で運用して利益を上げるのが本筋ですが、おカネを「もらう」こと、さらには、費用を先払いすることで利益がかさ上げされるということです。

繰り返しますが、あくまでも国民からの資金は、先に述べたように「資本金」や「永久劣後債」などのかたちで貸借対照表上に残し、それを今度は自由に運用して利益を出すというのが筋でしょう。しかし、ストックの概念である貸借対照表とフローの概念である損益計算書の違いがわからない人には、この議論もなかなかわかりにくいものです。

国会議員の中で、このことを理解している人がどれだけいるかが疑問です。そして、わかっている人たちの中でも、わからないふりをして、JR九州におカネを「あげて」しまったほうが都合のいい議員もいるのではないでしょうか。

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