フェラーリ、「秘密の工場」に行ってみた! NY証券取引所へのIPOは目前に

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マリッジ工程。作業する場所と作業者の身長に合わせて、無理のない姿勢で作業ができる(写真:フェラーリ提供)

検査もふるっていて、レントゲン検査によって内部に亀裂がないか検査したり、ポート内部の傷の有無を内視鏡で確認したりする。摩擦によるロスを下げるために燃焼室を研磨したり、ピストンをシリンダーに挿入してすり合わせたりするなど、すべてが人の手で行われている。これらの工程ごとに、IDカードで担当者を記録しており、履歴も追える。エンジンだけではなく、シートやトリム類の縫製、パネル類といったパーツの制作など、量産車の工場では見たことがないような手間暇のかけ方が許されている。

最終の組み付け工程では、おなじみのスーパー・スポーツカーがずらりと並んでいる光景が見られる。ボディの部品は、同じモデナ県にある100%子会社にて生産されて、送られてくる。一緒に塗装されたボディとドアがいったん外されて、ライン上で内装や電装部品が組み付けられていく。フロアごとにV8とV12の生産ラインが分かれているが、V8モデル同士、V12モデル同士なら混流生産が可能だ。

電装系、足回りなどを続々と組み付けていき、ようやく、おまちかねのマリッジ工程を見学する。シャシーの下からパワートレインを組み込む瞬間をそう呼ぶのだが、まるでこの瞬間にフェラーリに魂が吹き込まれるかのようにも見える。ここでユニークなのは、作業する場所と作業者の身長に合わせて、無理のない姿勢で作業ができるように、シャシーを上下させたり、ナナメにさせたりするなどのプログラムが組まれている工程だ。

こうした作業者の負担を減らす設備の投入も、冒頭で紹介した「フォーミュラ・ウオモ」の一貫である。そのほか、工場内に緑の茂る休憩スペースが設けられていたり、コンピュータ制御による空調で理想的な環境に管理されたりするなど、さすがはイタリアでもっとも働きやすい職場に選ばれただけのことはある。

カンティーナ(社員食堂)の様子(写真:フェラーリ提供)

最後に、フェラーリで働く人に、「この工場の最大の魅力は?」と聞いたところ、「社員食堂だよ」との答えが返ってきた。「毎日、会社でランチを食べるのが楽しみ」という声もあった。しかも、ブルーカラーも、ホワイトカラーも、分け隔てなく食事を採ることができるとのことで、これは階級社会のイタリアでは珍しいことだ。

工場見学を終えて感じたのは、IPO後に持ち株会社の国籍が移ろうとも、それは税法や経理上の都合に過ぎない。マラネッロに工場があり、そこで働く人々が誇りを持ってフェラーリを作り続ける以上は、イタリアのスーパー・スポーツカー・メーカーであり続けることができるだろう。

 

 

川端 由美 モータージャーナリスト
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