分譲マンションからAirbnbを排除できるか 管理規約を変えただけでは解決しない

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マンション管理の法律問題に詳しい桃尾俊明弁護士は、「確かに、区分所有者が開き直ってしまえば、止めることは現実的には難しい。組合側が、先回りして毅然とした態度を対外的に示すことで、『この物件でそういうことをしよう』と思わせないことが肝心だ。マンション内専有部分の売却に伴う重要事項説明の際に、このような規約の存在を強調しておくことが重要になる」と語る。ただ、ルールを定めていても、それ自体が大きな効力を持つわけではないことは、管理組合を運営する側も十分承知しているという。前出のブリリアマーレ有明は戸数が1000を超えていて、規模としてはもはやひとつの町。区分所有者の中には、外国籍の人もおり、文化や考え方の違いは当然ある。

「普段のイベントだったり、ちょっとした声かけだったり、コミュニティの中で顔見知りを増やしていく地道な努力がとても重要だと考えています。結局、最後はルールに従わせるより、『友人の◯◯さんがこう言っているから』と言ったソフトパワーで解決していくことの方が現実的です。face to faceのつながりの中で合意を得ていくというスタンスは、外国の方に対してでも変わりません」(星川氏)

期間限定で開放するやり方も

また、「個人的な意見」としつつも、星川氏はAirbnbそれ自体について、否定的な価値観を持っているわけではないという。管理組合の収入はもっぱら住民からの管理費と修繕積立費に依存していて、外部から資金を獲得する力はない。しかし、14日間のオリンピック期間中だけでもAirbnbを用いたとすれば、多額の収入が期待できるのだ。これをマンションの住人全体の利益に還元することを明確にすれば、全体の同意を得ることも不可能ではないだろう。

「うちのように、共用部が特殊な分譲マンションにはそぐわない面もあると思いますが、共用部がさほど大きくないマンションでは、トータルで考えた場合メリットの方が大きいケースもあるでしょう。期間限定で積極的にAirbnbを使ってインバウンドを受け入れるというマンションも今後出てくるかもしれません」(同)

たしかに、Airbnbを用いて「国際的な交流」を売りにするマンションというコンセプトを掲げることも考えられるかもしれない。Airbnbを排除するか、活用するか。それは何を目的とし、将来の資産価値をどのように作っていくのかという価値観の問題でもある。ただ、分譲マンションの管理組合は、輪番制で義務的にやっていることがほとんどで、ブリリアマーレ有明の管理組合のように、マンションの将来的な価値まで見据えて運営をしているところは極めて例外的だ。「危険なのは、住民や所有者が高齢化している築年数の経った分譲マンション。不動産をめぐる最近の情勢の変化について、そもそも認識すらしていない人が大多数となっている」と桃尾弁護士は指摘する。

今後は、中国、台湾などをはじめとした外国人が、比較的多く区分所有者となるマンションが、次々と竣工を迎える予定だ。対策を放置すれば、都心のタワーマンションでゲストルームを又貸しするといった問題は、さらに増えていくことになるだろう。ただ、今のうちにきちんと手当をしておけば排除できる可能性は高い。投資家も余計なリスクはなるべく取りたくないと考えるから、ブリリアマーレ有明のようにAirbnbを禁止する意思を明確にしているマンションが増えてくれば、そうしたマンションでは多少利回りが落ちても通常の賃貸としての運用を考えるようになるかもしれない。

また、星川氏が指摘する通り、マンションの付加価値の付け方は様々な方法が考えられる。現時点ではAirbnbは歴史が浅いため法整備もされておらず、そのリスクを考えるとなかなか積極的に認めることは難しいというのが実情だ。しかし、マンション全体で統一した指針の枠内で、秩序を保って行うことができれば、これを武器にすることも可能だ。

Airbnbは、従来は受動的にとらえられてきた、「マンションの管理運営について住民が共有すべき価値観」を思考するきっかけを与える、「黒船」としての意義があるといえるだろう。

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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