世界の潮流「修復腎移植」を阻む移植学会の闇 裏には「透析医療の利権問題」も

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腎移植の需給ギャップは緩和できるのか(写真 : Graphs / PIXTA)
2005年、愛媛県宇和島市で起きた臓器売買事件。腎臓移植手術の執刀医だった万波(まんなみ)誠医師は程なく無実が立証されたものの、それは次なる深い闇への導入線にすぎなかった。
腎不全による人工透析患者数は全国で31万人。そのうち、より根本的な治療となる腎移植を受けられるのは希望者のわずか1%だ。高橋幸春氏著『だれが修復腎移植をつぶすのか 日本移植学会の深い闇』は、絶望的な需給ギャップを緩和する修復腎(病気腎)移植を先導してきた万波医師と、それに傲然と立ちはだかる日本移植学会の10年間の記録である。

マスコミによる異様な「万波バッシング」

──そもそも修復腎移植とは?

がんの部分を切除した腎臓を移植に回す方法で、日本では日本移植学会(以下、移植学会)の働きかけで原則禁止されています。この禁忌を破り4センチメートル未満の小径腎がんを切除した腎臓を移植して、海外で注目されてきたのが宇和島徳洲会病院の万波医師と、仲間の医師たちでした。

万波さんは陰で売買された臓器と知らず執刀したことで事件に巻き込まれたのですが、その際病院側が、過去に修復腎を移植した例が11件あった事実を公表したことで、マスコミの目は一気にそちらへ飛び火します。2006年の万波バッシング報道は異様ともいえるものでした。

──当時はテレビや新聞、それに週刊誌で「猟奇的犯行」など過激なタイトルがあふれ返っていました。

事件調査に入った厚生労働省は結果公表前から、マスコミに事実無根の誹謗中傷を流しました。移植学会幹部は、がん部分を切除して使える腎臓なら患者本人に戻す(自家腎移植)べきだ、と非現実的なことを声高に叫んだ。実際の治療現場では、高難度かつ患者の肉体的負担が大きい自家腎移植はほとんど行われていないのにです。

医者が部分切除で大丈夫と説明しても、再発・転移リスクを恐れたり、もう一つの腎臓で事足りるからいっそ全摘してくれ、と言う患者がほとんどなのです。万波さんが修復腎移植を始めたのも、「この腎臓をあの患者に移植してあげられれば、助けることができる」と考えたのが始まりでした。

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