ビジネスより先を行く現代アート エムアウト社長・田口弘氏③

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たぐち・ひろし エムアウト社長。1937年生まれ。63年三住商事(現ミスミグループ本社)設立に参画。69年社長。2002年相談役就任とともにエムアウト設立。「マーケットアウト」の理念をBtoC市場へ展開中。日本を代表する現代アートコレクターでもある。著書に『起業革命「スタートアップ」のプロが伝授する事業創出のノウハウ』(小社刊)。

現代アートに関心を持ちコレクションするようになったのは、ミスミの社長時代です。1980年代、新橋のあるブティックに飾ってあったキース・ヘリングの作品を見て、「何だこりゃ」とびっくりしたことがきっかけなんです。

ちょうど新社屋に掛ける絵が欲しいということもありましたし、当時リクルートにいらした藤原和博さんからは「学生を採用したいんだったら、それなりの絵を飾らないと」とも言われていたんですよ。実際のところ、採用にはそんなに役に立ちませんでしたが。

経営者の立場から見て、現代アートから学ぶことはたくさんあります。何といっても、革新性という点で、べらぼうに進んでいます。キャンベル・スープの缶で有名なアンディ・ウォーホルの作品を見てもわかるように、従来では考えられない発想の転換がそこにはありますよね。

お客さんが見たいものをもっと展示する

現代アートの作家たちは、普通では考えられないことを次から次へと生み出し、しかもアートとして十分通用させている。落書きや漫画がアートになる。逆にいえば、そういった革新性がなければ、誰も評価しません。ビジネスの世界よりもずっと先を行っている感じがします。

現代アートを見て、どうしてこれがいいのかと思うかもしれません。しかし、最初見たときに違和感を覚えるものほど、慣れるとよくなるといわれているのも事実です。作家にしてみると、見る機会をどんどん増やしていけば、作品の価値が上がるという側面もあります。

 アンディ・ウォーホルはアトリエをファクトリーに変え、作品を量産した人物です。だからウォーホルの作品は多くの人が見ることができたし、その価値も上がりました。逆にいえば、作品の少ない作家は、有名になりにくいんですね。

今年の夏、損保ジャパン東郷青児美術館で開催された現代アート展に、タグチ・アートコレクションから約50点を出品しました。全作品に説明と作家の写真が入り、初心者にとっても非常にわかりやすく、現代アートを身近に感じることができたという感想を多くいただきました。

現代アートの展示会というと、学芸員の方々は玄人向けにいい企画を立てがちですが、底辺を広げるためにも、初心者向けの企画がもっと必要です。こちらの都合ではなく、お客さんが見たいものをもっと展示する。現代アートの世界でも、プロダクトアウトからマーケットアウトへと発想を変えていかなければいけないと感じています。

週刊東洋経済編集部
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