中国が日本人の「遺伝子情報」を蓄積している? いま流行の遺伝子検査の発注先に課題

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ドイツでは2009年に「ヒト遺伝学的診断に関する法律」が制定され、特定の職種で発祥しうる重篤疾患などの遺伝子検査を例外として遺伝差別を禁止するとともに、検査の実施や情報提供については医師の資格や施設の認証が求められるなど、厳格な要件が必要とされる。イギリスでは2010年にDTC遺伝子検査を販売する際に順守すべき原則を採用し、消費者へのカウンセリング方法や検査結果の解釈、およびデータの保護などを規定している。

国際機関においても、欧州評議会は2008年に「健康目的の遺伝学的検査に関する人権と生物医学会議追加議定書」を制定するし、経済開発協力機構は2007年に「分子遺伝学的検査における質保証のためのガイドライン」を取り決めている。後者には日本も加盟するが、同ガイドラインには加盟国に対する強制力はない。

小倉氏らが出した提言書では、遺伝子情報の流出が安全保障の問題にも繋がりかねない危惧も課題としている。

中国に日本人の遺伝子情報を集積?

中国は1998年に「人類遺伝資源管理暫行弁法」を制定。2008年には「人類遺伝資源管理条例」として再び制定した。これによると、許可なく遺伝子資源材料を収集・保存することは禁止され、中国国外に持ち出すこともできない。「その一方で、検査代の安価な中国に日本人の検体が流入しているとの話も聞く。中国は自国民の遺伝子を守る一方で、日本人の遺伝子がどう集積され、どう使われるかわからないというのは極めて危険だと思う」。

小倉氏らが懸念するのは、特定の民族に多いとされる特定の遺伝子に反応するウイルスなどを開発すれば、「兵器」として利用されうるのではないかという点。杞憂にも感じられるかもしれないが、実際に遺伝子兵器の実現について、英国医師会が可能性を言及したことがあり、この点は安全保障上の重要なテーマといえる。

現在では遺伝子については、ビジネス面では経済産業省、医療面では厚生労働省が担当する。規制についてはNPO法人個人遺伝情報取扱協議会が設定したルールなどがあり、多数の業者が参加しているものの、全ての業者を規制するような強制力は持っていない。

「すでに外国は動き出している。我が国でも官民が一体となって、遺伝子情報を国家プロジェクトとして位置づけなくてはいけない」

年間9%で成長し520兆円にも規模を持つ世界の医療市場。日本がそれにどのくらい食い込めるのか、その鍵を解く遺伝子ビジネスについて、もっと多くの関心が寄せられていいだろう。

安積 明子 ジャーナリスト

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あづみ あきこ / Akiko Azumi

兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。1994年国会議員政策担当秘書資格試験合格。参院議員の政策担当秘書として勤務の後、各媒体でコラムを執筆し、テレビ・ラジオで政治についても解説。取材の対象は自公から共産党まで幅広く、フリーランスにも開放されている金曜日午後の官房長官会見には必ず参加する。2016年に『野党共闘(泣)。』、2017年12月には『"小池"にはまって、さあ大変!「希望の党」の凋落と突然の代表辞任』(以上ワニブックスPLUS新書)を上梓。

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