電産・永守氏もホレた「ハプティック」とは? 「これは"第2のHDD用モーター"になる」

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まだ物理キーボードを持つストレート型の携帯電話が主流だった頃、現在のスマホのようなタッチパネル型キーボードを設置し、ハプティックによって物理キーボードのような触感を持たせようという試みがあった。だが結局、開発は頓挫し、ディスプレーと物理キーボードを分離した二つ折り型の携帯電話やスマホが主流になった。

そこからしばらく日の目を見なかったハプティックだが、水面下で開発を進めていたのが米アップルだった。2010年以降、着々と技術開発を進め、今年になってそれを「Taptic Engine」として結実させた。4月に発売された新型「MacBook」では、指でマウス操作やクリックをするトラックパッド部分に使われており、トラックパッドを押したときに擬似的なクリック感を味わえるようになった。

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AppleWatchの分解写真。上部の「TAPTIC ENGINE」と書かれた部品がハプティック機能を担う(フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ提供)

この技術は、4月24に発売された「AppleWatch」にも採用された。普通のバイブレーションに加え、「コツコツ」と手首を軽く叩くなどの複雑な感触を表現できるようになった。今年発売が見込まれる新型iPhoneでも導入が有望視されている。

アップルに追随して、韓国サムスン電子をはじめとしたライバル企業もハプティックを導入していく可能性が高い。「スマホの機能進化が上限に達しつつある中、ハプティックは貴重な新要素。当面はハイエンド品に限られるが、アンドロイド端末にも順次導入されていくだろう」(柏尾氏)。

車載向けでも拡大の余地

用途はPCやスマートデバイスばかりではない。電装化が進む自動車への応用も嘱望されている。現在、車載のエアコンやオーディオなどの操作機能をボタンやスイッチからタッチパネルに置き換えていく動きが進んでいるが、運転中は前を向いているのでタッチパネルを見ることができない。ところがハプティックを使えば、触っただけでどこを押せばいいか、わかるようになる。

ほかにも、ゲーム用途や遠隔手術など、さまざまな分野への応用が期待されている。その要は、振動を伝えるモーターだ。超小型で省電力、なおかつ精密な動きを要求されるハプティック用モーターは、HDD用小型精密モーターで名を上げた日本電産にとって得意分野。永守社長も「技術はHDD用のスピンドルモーターで培ってきた。この分野で必要なあらゆる技術を持っている」と自信を見せる。

HDD向けで世界シェア8割以上を握り、2011年度には日本電産の営業利益の7割を稼いだ小型精密モーターだが、近年はパソコン向けの記録装置がHDDからSSDに置き換わったことで事業環境が悪化。精密小型分野で新たな成長分野を探し求めていた。

将来1兆円を越える市場規模まで成長するとも目されているハプティック。実際にどこまで拡大するかは、日本電産のモーターがどこまで触覚を再現できるようになるかにかかっている。

渡辺 拓未 東洋経済 記者

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わたなべ たくみ / Takumi Watanabe

1991年生まれ、2010年京都大学経済学部入学。2014年に東洋経済新報社へ入社。2016年4月から証券部で投資雑誌『四季報プロ500』の編集に。精密機械・電子部品担当を経て、現在はゲーム業界を担当。

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