震災で放映自粛、幻の九州新幹線CMの舞台裏 沿線ウエーブが呼び起こす感動
九州新幹線全通を祝う幻のCMを見たことがあるだろうか。鹿児島から博多までの沿線各地で市民が新幹線に声援を送るというCMだ。3月9日から九州地区で放映されたが、震災の影響からわずか3日で放映自粛となってしまった。しかし、ユーチューブなどで見た人たちの間で「感動した」「元気が出る」と話題沸騰。その評判は全国に広がり、4月29日の東北新幹線全線復旧時には、沿線各地でこのCMを模したウエーブが巻き起こった。感動のCMは、どのようにして撮影されたのか。
新幹線全通は50年に1度の大イベント
企画が持ち上がったのは、昨年の3月。どんな内容にしようか。電通の古川裕也エグゼクティブ・クリエーティブディレクターは思いを巡らせた。何しろ電通といえば、「ディスカバー・ジャパン」「そうだ京都、行こう」など数多くの鉄道CMの名作を世に送り出している。しかも社内では、別のチームが東北新幹線の新青森駅開業CMを制作中。恥ずかしいものは作れない。
九州人にとって新幹線全通は50年に1度ともいわれる大イベント。普通のCMではダメだ。そこで、開業を祝う「お祭り」を作ろうと考えた。九州全域を巻き込み、九州のみんなが参加する祭り。その模様をそのままCMにしよう。この案をアート・ディレクターの正親篤氏が企画にした。
広告代理店4社による競合プレゼンを無事に勝ち抜いて、プロジェクトが動き出した。イベントに参加するのは、ネット上で登録した先着1万人。さらに沿線にある学校、企業、少年野球チームなどいろいろな団体に声をかけた。何人集まるかは当日にならないとわからない。
スピードが速すぎるときれいに撮影できないため、新幹線を時速80km、駅構内では時速40kmという低速運転で走らせることにした。鹿児島中央-新八代間では猛スピードの新幹線が行き交う。そこを低速の新幹線が走れるのか。心配する撮影スタッフを前に、「大丈夫。やります」と、JR九州側で同プロジェクトを担当した古宮洋二営業部長は太鼓判を押した。営業運転前のまっさらの新車にラッピングをすることにもOKが出た。
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