習近平国家主席の"笑顔"に隠された思惑 地図で読み解く、主導権を巡る駆け引き
最近の日中間でのトピックは、自民党の二階俊博総務会長が観光業界関係者ら約3000人を率いて訪中したことだ。この大人数を迎えた中国としては、異例の歓迎ぶりだった。
習近平国家主席は遣唐使の阿倍仲麻呂や1972年の国交正常化など良好だった両国関係に触れ、さらには「中日関係の発展を重視しており、この基本方針は変わらない」と日中友好や民間交流の重要性を訴えたのだ。
しかし、相変わらず尖閣諸島周辺では領海侵犯を繰り返し、9月3日には「抗日戦争勝利70年」記念式典の開催を計画。軍事パレードまで予定しており、歴史認識を基本とした反日カードを握りながらの柔軟姿勢である。
今回の習主席の融和姿勢には、政権の安定にかかわる経済成長減速への強い危機感があるとみるべきであろう。
笑みの背景にある「狙い」
中国で有数の重工業地帯として知られる遼寧省(りょうねいしょう)の経済は、インフラ投資を中心とする政府投資によって2012年までは2ケタ成長が続いていた。しかし、2015年1月から3月期の経済成長率は前年同期比1.9%増となり、2014年の年間成長率5.8%から大きく落ち込んだ。
中国経済全体としても、成長率は7%と6年ぶりの低成長で、内需型の重工業の生産は振るわない。住宅市場が冷え込み、鉄鋼やガラスなどは大幅な生産過剰に陥っている。政府は景気下支えのために利下げを繰り返しているが、目立った効果は見えず、国内消費は伸びてこない。
さらには、労働賃金の高騰を主な原因に、日本企業の撤退が相次ぎ、対中投資が激減している。この現実の中で、習主席の融和姿勢には、中国政府には日本の技術と資金と共に激減している日本人観光客を呼び戻す狙いがあったと言えるだろう。
その意味で、3000人の日本人訪中団の前で見せた習近平主席の笑顔は、中国の戦略と密接に絡み合っており、基本的にはいつ怒りの表情に変わってもおかしくはない。そのことは心しておかねばならないだろう。
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