習近平国家主席の"笑顔"に隠された思惑 地図で読み解く、主導権を巡る駆け引き

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もうひとつのトピックは5月で締め切るとしていたAIIB(アジアインフラ投資銀行)の創設メンバーが57カ国に確定したことであろう。

AIIBの特徴は、1000億ドルと見込まれる資本金の約3割を中国が出資し、総裁には元国務院財政部次官が就くことになっているところにある。

総裁は紛れもなく中国共産党員であり、党の方針には逆らうことはありえない。さらに言えば、中国の中央銀行には日銀のような独立性がなく、国務院の一部局のような存在となっている。このようなシステムであるところから、AIIBも中国政府の意思がストレートに反映されると言っても過言ではないだろう。

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先の記事で触れたが、AIIB の主な目的は「一帯一路」と呼ばれる中国経済圏の拡大である。生産過剰状態にある国営企業を主とするインフラ資材生産事業を海外で展開すると同時に、大量の失業者を生みつつある経済低迷状態からの脱却を果たすことにあると言えるだろう。

この構想は、中国を起点に中央アジアからヨーロッパに延びる内陸の「シルクロード経済ベルト」と東南アジアからインド、中東へと広がる「21世紀海のシルクロード」からなる。そこで鉄道、道路、パイプライン、都市開発などのインフラ整備を中国企業が取っていこうとするのが狙いだ。日米が主張するように、ガバナンスが明確でないのは当然のことと言える。

このような性質を持ったAIIBの戦略的意味は、日本にとっては安全保障問題と深く絡まり合っている。

中国の構想どおりにインフラ建設が進行すれば、地政学的変化を与えるインパクトを持ってくる。

たとえば、ベトナムとミャンマーが陸路で太く結ばれると、マラッカ海峡通過が必要なくなる。また、昆明からミャンマーのヤンゴンまでの南北ルートが開通すれば、中国がインド洋に出る重要ルートになるだろう。そうなると中国がグローバルパワーの国となり、あらゆる意味で歯止めが利かなくなるおそれが出てくる。

具体的には東シナ海での尖閣をめぐる問題には、中国の圧力が増してくるし、南シナ海の重要なシーレーンが脅威にさらされる事態が予想できる。このことは日本にとっては、まさに安全保障上の問題である。フィリピンと同盟関係を再構築し、ベトナムとも友好関係を結ぶなど、アジア回帰を主要な政策と掲げるオバマ政権にとっては、AIIB問題は安全保障上の問題となってきているのだ。

AIIBに参加した理由は世界地図で一目瞭然!

このようなAIIBに、先進国で最初に参加を表明したのはイギリスであり、その後、雪崩を打ったようにドイツ、フランス、イタリア、オーストラリアなどが参加を表明した。日本と米国は参加を見送ったが、イギリスが手を挙げた当初、日本では「バスに乗り遅れるな」と不参加を非難する声が上がった。

イギリスをはじめとするヨーロッパ諸国が、なぜ参加したのか。これは世界地図を見れば一目瞭然である。AIIBは日本にとっては安全保障問題であるが、ヨーロッパ各国にとっては単にビジネスの問題でしかない。中国がいくらグローバルパワーになるからといって、ヨーロッパにまで攻め込んで来るわけではない。中国とヨーロッパの間にはロシア、中東があり、現実的に安全保障問題と絡まり合わせるという発想もないだろう。

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