「フェルマーの最終定理」は、序章にすぎない 青木薫が「数学の大統一に挑む」を読む

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「数学の大統一」に挑んだ旧ソ連出身の数学者、エドワード・フレンケルの著書『数学の大統一に挑む』をポピュラーサイエンス界の女王、訳者の青木薫が読み解く(写真:Yellowj / PIXTA)
17世紀の学者フェルマーが書き残した「フェルマーの最終定理」。360年の長きにわたって幾多の数学者たちの挑戦を退けてきたこの定理の証明は、モジュラー群というまったく別の数学の、ある予想を証明することで解決する。
「ブレイド群」「リーマン面」「ガロア群」「カッツ・ムーディー代数」「層」「圏」、私たちの知らないさまざまな数学があり、そしてその数学の間に不思議なつながりがある。その「ロゼッタ・ストーン」を解読すること。フランスの数学者によって始められたその挑戦は「数学の大統一」=「ラングランズ・プログラム」と呼ばれた。
この「数学の大統一」に挑んだ旧ソ連出身の数学者、エドワード・フレンケルの著書『数学の大統一に挑む』をポピュラーサイエンス界の女王、訳者の青木薫が読み解く。 

数学に愛を向けたエドワード・フレンケル

本書『数学の大統一に挑む』の原題は“Love and Math”、直訳すれば『愛と数学』である。欧米の本のタイトルには抽象的で詩的なものが多いが、本書もそのひとつと言えるだろう。もしもこのまま邦訳版のタイトルになっていたら、日本の本屋さんは、本書の分類に困ったかもしれない。だが、この原書タイトルには、著者エドワード・フレンケルの熱い思いが込められている。米国のある書評子は、この本は、フレンケルが数学に宛てたラブレターだと述べた。本書を読み終えられたみなさんは、たしかにそうかもしれないと思われるのではないだろうか。ここには数学に向けた彼の愛が溢れているからだ。しかしそれだけでなく、数学の力と美しさを、読者であるあなたに伝えたいという情熱がほとばしっている。文系の読者ならば、「ちょっと待って」とたじろいでしまいかねない、不思議な気迫がここにはある。

そんな本書を読み解くためのキーワードをひとつ挙げるなら、私は「諦めない」を選びたい。本書は、2つのテーマを縦糸と横糸として織りなされたタペストリーとみることができよう。縦糸は、数学者としてのフレンケルの半生、そして横糸は、数学の大統一理論とも言われる「ラングランズ・プログラム」を紹介することだ。そのどちらの糸も、「諦めない」という、フレンケルの強い意志によって紡がれていると思うのである。

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