新国立競技場、船頭なき"大艦"の視界不良 なぜ建設費が2520億円に膨らんだのか

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それ以上にずさんなのが収入計画だ。年間にサッカー20試合、ラグビー5試合、陸上競技大会11回、そしてコンサート12回を開催する計画になっている。が、それだけで、毎週何かのイベントが行われることになる。これに準備期間や展示会などコンベンション事業も加えると、計画どおりのイベント開催は不可能。絵に描いた餅でしかない。

しかも、五輪とパラリンピックの期間中に仮設で設置される練習用サブトラックは、その後取り壊されてしまう。それなのに、どうして陸上競技大会を開催できるのか。また、8万人の観客を集めるコンサートを毎月1回開くことなど、可能なのか。開催できたとしても、年間6億円程度の収入のために、300億円もかけて遮音用の開閉式屋根を建設する価値があるのか。疑問点は山ほどある。

イベント事業による収入の合計は約10億円。展示会などのコンベンション事業は約2億円。そのほか、VIP席としての年間指定席の販売約12億5000万円、スポンサー収入約11億円などで、合計約38億円の年間収入を見込んでいる。しかし、これがいかに甘い見通しかは、あらためて指摘するまでもあるまい。

そんな新国立競技場が現在の計画どおりに建設されたなら、“巨大な金食い虫”として、国の財政を傷つけるであろうことは容易に想像できる。莫大な維持費を捻出するため、五輪後は野球場に改造してプロ野球・読売巨人軍の本拠地にしてはどうか、という声まで聞かれる。

設計図はなおも未完成

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建設予定地の地中には、今も5000本以上のコンクリート杭が残っている(撮影:尾形文繁)

しかし、新国立競技場は、いったい何のために建設されるのか。それは日本のスポーツの発展のためであり、その中心になる施設として造るはずである。

ならば、1000億円もかければ十分な施設が建設できるのに、選手強化費などを削ってまで金食い虫のハードを造ることは、ナンセンスの極み。競技場としては何らプラスにならないコンサート用の設備など、論外のはずだ。

戦時期の戦艦「武蔵」「大和」の建造にも匹敵するような“大艦巨砲主義”に、その完成すら危惧する建築家は少なくない。

高低差が10メートル以上もある建設予定地には、まずは巨大な建造物を載せる大きく平らな土台を造る必要がある。が、現在更地になったかに見える旧国立競技場跡には、かつて観客席を支えた5000~1万本のコンクリート製の杭が地中に残っている。

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