FC東京は、こうやって「武藤」を育て上げた 選手の"自立"を促す、育成型クラブの極意
サッカーに関心のある人なら、この選手の名を一度は耳にしたことがあるだろう。武藤嘉紀――。昨年、慶応義塾大学に在学しながらJ1リーグのFC東京でプロデビューを果たすと、新人最多得点記録に並ぶ13得点(リーグ4位)をマーク。9月には日本代表にも選ばれた。今年に入ってからも6月7日時点で10得点と、リーグトップタイにつける。デビューから2年連続で10ゴール以上を上げたのは、城彰二以来、Jリーグ史上2人目の快挙だ。
そんな次代の日本代表を担う逸材に、サッカーの本場・欧州が注目しないはずはない。今春には世界有数のビッグクラブ・チェルシー(イングランド)から獲得オファーを受けた。最終的には、5月末にドイツ・ブンデスリーガのマインツへの移籍で合意。7月から欧州でプレーすることが決まっている。
武藤の強みは、日本人離れしたフィジカルを前面に押し出した“縦への突破”だ。日本代表ディフェンダーの森重真人を中心とした堅守によって奪ったボールを、武藤の推進力でゴール前まで持っていくFC東京の戦い方は、時に「戦術武藤」と揶揄されるほど。リーグ戦で現在3位と上位に付ける原動力となっている。
最大の強みは“自己修正能力”
だが、小学5年生の頃から武藤を知るFC東京・育成部長の福井哲など複数の関係者は、彼の本質的な強みはもっと別のところにある、と口をそろえる。それは“自己修正能力の高さ”だ。
ユース時代も含めて、武藤が日本代表に選ばれたのは昨年が初めて。同世代の宇佐美貴史(ガンバ大阪)や柴崎岳(鹿島アントラーズ)のように、年代別の代表に選ばれた経験はない。そんな彼がプロ入り後すぐに代表へ選出された背景には、自らの課題を的確にとらえ、迅速に克服していく力があった。
圧巻だったのは、5月2日の川崎フロンターレ戦。昨年の大活躍によって、今シーズンは縦に抜けようとする武藤の動きを相手チームが徹底的にマークするようになった。それならとばかりに、武藤はフィジカルの強さを生かしたボールキープで相手のファウルを誘発。そして、自らが獲得したフリーキックからのヘディングで逆転弾を決めてみせた。前を向かせてもらえないならファウルをもらってセットプレーから点を取ればいい。そんな発想の転換の賜物だった。
「人生において越えられない壁はない。だから、常に物事をポジティブにとらえて、それを乗り越えることを考えている」と語る武藤。類いまれな自己変革能力を持つシンデレラボーイは、はたしてどのようにして育てられたのか。
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