研究者に研究資金が回る循環を TXアントレプレナーパートナーズ代表・村井勝氏③

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むらい・まさる 1937年大阪府出身。関西学院大学卒、米カリフォルニア大学大学院でMBA取得。米国IBM入社(後に日本IBMに転籍)。91年コンパック社長就任。98年退社後、数多くのベンチャー企業を育成。2009年11月よりTXアントレプレナーパートナーズ代表。

以前、日本では結果を徹底的に評価する仕組みがないと指摘したことがあります。それは目標設定を明確にしていないからです。目標がなければ評価もできません。

英語教育がその最たる例です。日本人は6年以上にわたり英語教育を受けていますが、目的がはっきりしていない。講演で聴衆の皆さんにお聞きすると、ほとんどの方が「受験のため」と答える。ちょっと待ってください。受験のために勉強するわけじゃないでしょう。文部科学省には、何のための英語教育なのかをはっきりしてほしい。国民がクレームを出さないのもおかしいと思います。

ある研究所での話です。多額の予算を使って多くの研究活動が行われているのですが、年間に得ている特許料収入はごくわずか。さらに研究所から生まれたベンチャー企業の中で、利益を出しているのもわずか。そうした状態がずっと続いている。

「俺って何だろう、日本人って何だろう」

特許料について調べてみると、企業との共同所有権という形態が多いことがわかりました。研究者が独立して起業しようとすると、その企業の許可が必要になるという弊害もある。しかも、企業はそうした特許を活用していないことが多い。

私は、研究者がおカネを使って研究に没頭することが悪いこととは思いません。でも、そうした成果を、事業化によって少しでも世の中に還元し、そこから生まれたおカネをまた研究資金として回していくという循環を作っていくことも、また必要ではないでしょうか。税金が一方通行で使われて終わってしまうのは、許されないことだと思うんですよ。

私には、ビジネスの経験を積み、またベンチャーを支援してきた仲間がたくさんいます。そこで、すばらしい技術を持っているけれど、ビジネスのことはわからない、そういった方々をお手伝いしたい。それが、ベンチャー支援を本格的に始めた動機です。かつてインテル会長を務めた西岡郁夫さんも志を同じくする仲間です。「ベンチャー企業を支援しているのは外資系トップ経験者ばかりじゃないか」と話したことがあるのですが、そうなったのは、決して偶然ではないような気がします。

外資系企業で外国人に囲まれて仕事をしていると、時には悔しい思いをすることもありますし、好むと好まざるとにかかわらず、「俺って何だろう、日本人って何だろう」と自問することも多くなる。日本人は頑張らなきゃと思うようになるし、逆に、みんなに頑張ってもらわないと、自分自身も否定されるように感じるところがあるのです。

週刊東洋経済編集部
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