フィリピン「ラスプーチン」で新旧大統領派が激突 指名手配犯の新興宗教教祖がカギを握る政局

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片田舎の教祖と教団が「全国区」に躍り出たのは、30年来の親友とお互いに認めるドゥテルテ氏が2016年、ダバオ市長から大統領選に立候補し、当選してからだ。キボロイ氏は選挙戦中には自家用ジェット機やヘリを貸し、資金面でも多大な援助をしたとされる。

就任後は大統領の「スピリチュアル・アドバイザー」との肩書を与えられ、政権の威光を背景に活動の幅を広げた。政権末期の2022年1月26日、教団のテレビ局SMNIが国家通信委員会から25年間の地上波放送免許を与えられた。ドゥテルテ政権に批判的だった民間最大の放送局ABS-CBNの免許更新を認めず、その周波帯の一部をSMNIに割り当てた。

FBIが性的虐待などで手配書公開

ところが、その5日後の1月31日、アメリカ連邦捜査局(FBI)はキボロイ氏と側近2人を重要指名手配容疑者とする手配書を公開した。アメリカでの演奏会出演や留学、結婚など虚偽の名目で、フィリピン人信者にビザを取得させて入国させ、旅券を取り上げたうえ、車内に寝泊まりさせながら、フィリピンの子どもたちへの寄付名目でノルマを課して街頭募金をさせたとされる。

2022年6月19日、フィリピンのダバオで行われたサラ・ドゥテルテ氏の次期副大統領就任宣誓式に出席した、児童売買などでFBIに指名手配されている宗教指導者アポロ・キボロイ氏(写真・Ezra Acayan/Getty Images)

ほかにも家事手伝いや性行為を強要したとする労働法違反や人身売買、現金密輸、資金洗浄などの違法行為が列挙されている。2014からの約6年間で約2000万ドルを集め、団体の運営費、キボロイ氏や側近の贅沢三昧のために使ったという。偽装結婚は20年間で82件にのぼる。

アメリカ連邦大陪審が2021年11月10日、キボロイ氏を強制、詐欺、強要による性的人身売買および児童の性的虐待、現金密輸の罪で起訴し、逮捕状を出していた。

アメリカ政府の措置を受けてユーチューブ、TikTok、フェイスブック、インスタグラムは2023年8月までに規約違反などを理由にキボロイ氏と教団に関連する多数のアカウントを削除した。

フィリピンのネットメディア・ラップラーはキボロイ氏と教団がアメリカ・カリフォルニアとラスベガス、カナダに少なくとも計4つの邸宅(計1083万ドル)を所有していると報じた。

さらにフィリピン国内では膨大な不動産のほか、キボロイ氏の名をとった「アポロエア」で2機の航空機と3機のヘリを所有し、ドゥテルテ氏以外にも支援する政治家には選挙戦の足として提供している。

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