いったい「異次元緩和」をする必要はあったのか? 「壮大な実験」の失敗ではっきりしたことは何か

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したがって、量的緩和は終了し、日銀は長期国債を一定程度買い続けるが、それはあくまで緩和ではなく、過去の遺産の処理のための調整手段だから、これからは「普通の金融緩和」と過去の負の遺産の処理(まさに負債処理)のみ、ということだ。

これから日銀は何をするのか

つまり、正常化をもう実現してしまったのだ!

メディアや金融関係者は「正常化はまだ第一歩にすぎず、これからの道のりは長い」などと言っているが、植田総裁も、私と同じように正常化は終わったと考えているのではないか。記者会見では、「正常化が何を意味するかによるけれども」と留保条件をつけ、はっきりと正常化が終了したとは言わなかったが、彼の説明の全体を見渡すと、「普通の」というのは正常化したあとの姿ということではないだろうか。

これからは、景気と物価を見ながら利上げをしていくだけのことだ。つまり、本当に本当の「普通の」金融政策になったのだ。そして、負の遺産の処理は、それとは別に、金融緩和や引き締めのための金利の上げ下げとは別のものとして、景気や物価とは別の観点で、金融市場と向き合いながら、(おそらく淡々と)処理していくのだ。

この負債処理、言い換えれば、含み益がある株式と含み損が出始める国債という「負の遺産」に関する「ある種の不良(普通ではない異常状態という意味で)」資産処理、これを行っていくことになる。

これが完全に終了するまで、完全な正常化は果たせないという見方もある。だが、アメリカの中央銀行にあたるFEDも量的引き締めのペースを調節しながら、現在、「普通の」金融政策として、雇用と物価をにらみながら金利の上げ下げをしている。だから、21世紀の中央銀行は、「普通の」金融政策と同時に、つねにバランスシートポリシーも調節し続けるのが常態化するのかもしれない。それが、21世紀の「普通の」中央銀行の姿になるのかもしれない。

いずれにせよ、植田日銀は、一瞬でほとんどの正常化を完了してしまったのだ。大絶賛だ!

しかし、同時に衝撃的なサプライズでもある。そして、政策議論としては、深刻な大問題を提起しているのだ。それはどういうことか。

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