なぜ地方は撤退戦略を持たず事業をするのか 「撤退なき消耗戦」で地方は衰退する

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撤退要件は危機的な状況になればなるほど、当事者の判断が鈍くなってしまいます。

撤退要件は絶対に最初に定めなくてはなりません。誰かがそのときどきで決めるのではなく、ルールで定めなくてはならないのです。もし属人的な形でプロジェクトが開始され、初期に撤退要件を決めていない場合は、前述のように、首長も担当者も、「自分の任期の間だけは逃げ切ろう」と、無駄なおカネをつぎ込みがちなのです。

今、地方創生でもKPI(重要業績評価指標)の設定やPDCAサイクルを通じた検証などが叫ばれていますが、併せて決めるべきは撤退要件です。
どの程度目標を下回ったらプロジェクトを中止するのか。これを明確に最初に定め、取り組むことがすべての基本です。誰かが危険になったら決めてくれる、などという希望的観測はやめなくてはなりません。特に縮小社会の場合、一つのミスが地域の命取りになりかねないのです。

撤退戦略とは、「未来につながる前向きな話」

われわれが地域で仲間と共に事業に取り組む際にも、時間軸でのリミット、資金軸でのリミットを最初に大枠定めます。「これ以上時間をかけても事業が実行できなかったら中止しよう」「この額以上に損が出たら中止しよう」といった具合です。

あらかじめ決めておけば、万が一これらの撤退要件にひっかかる状況になれば、誰も反対せず、「ここらへんでいったん考えなおそう」ということが、ためらうことなく言い出せます。でないと「まだもう少し頑張ろう」とか「もう少しだけ投資すればどうにかなる」といったように、損切りする、しないで論争になってしまいます。

地域活性化事業で重要なのは、成功することと共に、大きな失敗をしないことです。もし大きな失敗をしたら再挑戦することは困難になります。地域での事業は、常に「挑戦と失敗の繰り返しをどれだけできるか」にかかっています。

挑戦して、まずくなったらいったん手仕舞いして、再度やり方を変えて挑戦してみる。この繰り返しを続けられるようにするためにも、大きな失敗はしてはいけないのです。初期に撤退条件を話すことは決して後ろ向きな話ではありません。未来につながる前向きな話なのです。
 

木下 斉 まちビジネス事業家

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きのした ひとし / Hitoshi Kinoshita

1982年東京生まれ。1998年早稲田大学高等学院入学、在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長就任。2005年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業の後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学、在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。2008年より熊本城東マネジメント株式会社を皮切りに、全国各地でまち会社へ投資、設立支援を行ってきた。2009年、全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。内閣官房地域活性化伝道師や各種政府委員も務める。主な著書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK新書)、『まちづくりの「経営力」養成講座』(学陽書房)、『まちづくり:デッドライン』(日経BP)、『地方創生大全』(東洋経済新報社)がある。毎週火曜配信のメルマガ「エリア・イノベーション・レビュー」、2003年から続くブログ「経営からの地域再生・都市再生」もある。

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