アドラー『嫌われる勇気』で生じた2つの「誤解」 「トラウマは存在しない」説と「課題の分離」

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「部屋を片付けてほしい」のは、「親の課題」です。親が勝手にかけた子どもへの期待です。子どもがそれをどう受け取るかは「子どもの課題」です。

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親自身が、「子どもが言うことをきかない」とイライラしたり、「片付けなさい!」と一方的に口を出してしまうと「相手の課題に土足で踏み込む」ことになってしまいます。

この場合、「課題の分離」を用いてお互いの課題をいったん分離し、その次にお互いが協力して取り組む課題として「共同の課題」を設定するのです。

「夕飯までには片付ける」「ボックスに入れるだけにすれば片付けやすいのでやれる」などと、やり方や期限についてお互い落ち着いて相談し合うのです。

つまり「課題の分離」は、「いったんもつれてしまった人間関係の糸をほぐすためのもの」です。その先には、必ず協力関係を置いているのです。

「課題の分離」は、いわば「共同の課題」の「前段階」のステップなのです。

上司・部下の人間関係でもよくある話

「注意したのにいうことを聞かない」とか、「ちゃんと教えたのに何も変わらない」と怒る親は少なくありません。

こういう「私が○○○したのに、相手は変わらない」という悩みは、親子でも上司部下でも、友人でも、パートナーでもよくある話です。人間関係をこじらせてしまう原因になりがちです。

こうした悩みに、「私の課題」と「相手の課題」を切り分け(課題の分離)、そのあとに、お互いどうしたらいいかを落ち着いて話し合うのが「共同の課題」なのです。

「課題の分離」の一面だけが取り上げられ評価されてしまった感がありますが、本来は、「協力のための手続きの1つ」なのです。

アドラー心理学の教え「人間のものの見方は十人十色」
(画像:『超訳 アドラーの言葉』を参考に東洋経済作成)
岩井 俊憲 ヒューマン・ギルド代表

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いわい としのり / Toshinori Iwai

1947年、栃木県生まれ。早稲田大学卒業。1985年、有限会社 ヒューマン・ギルドを設立。代表取締役。中小企業診断士、上級教育カウンセラー、アドラー心理学カウンセリング指導者。ヒューマン・ギルドでカウンセリング、カウンセラー養成や公開講座を行うほか、企業・自治体・教育委員会・学校から招かれ、カウンセリング・マインド研修、勇気づけ研修、リーダーシップ研修や講演を行っている。「勇気の伝道師」をライフワークとしている。『人を育てるアドラー心理学』(青春出版社)ほか、著書多数。

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