WR-Vの価格をライバルに合わせたホンダの苦境 高価格化したヴェゼルの穴を埋めるも課題あり

拡大
縮小

ただし、ヤリスクロスGにはアルミホイールやディスプレイオーディオが備わる代わりに、WR-Vに標準装着されるLEDヘッドランプはオプションだ。

また、室内空間もWR-Vのほうがやや有利で、身長170cmの大人4名が乗車したときの足元空間は、WR-Vでは握りコブシ2つ半の余裕があるが、ヤリスクロスは1つ半にとどまる。後席を使っているときの荷室容量も、WR-Vの458Lに対し、ヤリスクロスは390Lと少ない。

シートはXがファブリック、Z、Z+ではプライムスムース×ファブリックとなる(写真:本田技研工業)
シートはXがファブリック、Z、Z+ではプライムスムース×ファブリックとなる(写真:本田技研工業)

WR-Vは、アダプティブクルーズコントロールの機能や燃費に設計の古さが散見されるものの、価格はヤリスクロスと同程度に割安で、居住空間や荷室の広さはヴェゼルと同等。ヴェゼルはガソリン車グレードを減らしてユーザーをヤリスクロスに奪われたから、WR-Vの投入で取り返そう。それがホンダの意図だ。

そのためにWR-Vは、価格をヤリスクロスに合わせた。実用的なコンパクトSUVが欲しいユーザーにとって、WR-Vはお買い得で検討する余地の高い車種に仕上がっている。きっとWR-Vは、それなりの台数を売る人気車種になるだろう。

ブランドのダウンサイジングを食い止めよ

一方で、ホンダにとって今後の課題は、安価で実用的なWR-Vの投入によりヴェゼルの売れ行きがさらに下がるであろうことである。

今では軽自動車の「N-BOX」がホンダの国内販売の40%近くを占めており、同社のブランドイメージもダウンサイジングして、「小さくて背の高い実用的で安価なクルマのメーカー」になった。ブランドイメージとしても、ヴェゼルよりWR-Vのほうが販売しやすい。

2024年3月14日に発表されたヴェゼルの改良モデル。ガソリンGは4WDのみとなる(写真:本田技研工業)
2024年3月14日に発表されたヴェゼルの改良モデル。ガソリンGは4WDのみとなる(写真:本田技研工業)

2024年中にはコンパクトミニバンのフリードのフルモデルチェンジも予定されており、売れ行きを増やすはずであるから、ミドルクラスミニバンのステップワゴンも従来以上に苦戦する。

したがって、今後のホンダはZR-V、ヴェゼル、オデッセイ、ステップワゴンなどの販売に力を注ぎ、発売が予定されている「シビックRS」や「プレリュード」のアピールとあわせて、ブランドイメージと販売構成比を元に戻すことが重要になる。

ホンダ社内にはRSをシリーズ化するアイデアもあるようだが、これも早期に実現させなければ、ブランドイメージのダウンサイジングがさらに加速する。WR-Vは、良くも悪くも今のホンダを象徴するクルマなのだ。

この記事の画像を見る(13枚)
渡辺 陽一郎 カーライフ・ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

わたなべ よういちろう / Yoichiro Watanabe

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまにケガを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人たちの視点から、問題提起のある執筆を心掛けている。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
自動車最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT