都の学校カウンセラー「250人雇い止め」の衝撃 学校や保護者から評価高く、経験豊富なSCが…

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山口さんは17年間、都のSCとして働いてきた。東京都教育委員会(都教委)から不合格の通知が届いたのは1月下旬。勤務先の学校の校長と副校長に報告をすると、驚きと戸惑いの声が上がったという。「信じられない。山口さんがいなくなったらわれわれが困る」「山口さんに続けてほしいから、すべてAを付けたのに。それはないだろう」。最後は都教委に抗議するとまで言ってくれたと、山口さんは振り返る。

「Aを付けた」とは校長らによる業績評価のこと。職務遂行力や協調性などの項目ごとにA〜Ⅾの4段階で評定される。山口さんはすべての項目でA評価だと伝えられた。しかし、都教委によると、今回のSCの試験ではそれまでの実績や学校評価は選考基準に含まれていないという。

これに対し、山口さんは「学校からの評価も高く、経験も豊富なSCを切る理由ってなんですか? 子どもたちや保護者にどんなメリットがあるんでしょうか?」と反発する。

山口さんによると、SCの仕事は相談室で子どもたちが来るのをただ待っているだけではない。保護者との面談や教師への説明に加え、普段の様子を見るために授業や給食中の教室を回ることも重要な業務だ。校内の関連部会やケース会議への参加を求められることや、教師の家庭訪問に同行することもある。対応する問題もいじめや不登校だけでなく、虐待や自傷行為、ヤングケアラー、発達障害、宗教2世など年々複雑、かつ深刻化している。

東京都のスクールカウンセラーとして17年間働いてきた山口さん。勤務校からの評価は高く、「校長先生たちが『山口さんが雇い止めなんて、おかしい』と言ってくれたことを思い出すと、少し救われる気持ちになります」と話す(筆者撮影)

山口さんが今の学校に配置されたのは1年前。通常、SCは6年間同じ学校に勤務するという。その間、計画的に時間をかけて人間関係を築いていき、配置換えが近くなったときは子どもや保護者の心理的な負担を抑えるための準備をする。

山口さんは「SCが1年で突然いなくなっては、子どもたちも戸惑うのではないか」と心配する。実際に中学生の子どもを持つある母親は「以前、子どもがSCが代わったという理由で面接に行くのをやめたことがあります」と語る。SCの能力や経験はもちろんだが、「同じ人が、できるだけ変わらず同じ場所にいてくれる」ことの安心感が大切なのだという。 

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