都の学校カウンセラー「250人雇い止め」の衝撃 学校や保護者から評価高く、経験豊富なSCが…

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都のSCの勤務日数は1校につき年間38日で、平均週1回のペースで出勤する。1人のSCが1〜3校を受け持ち、1校当たりの年収は約170万円。多くが大学院で心理学を専攻し、臨床心理士や公認心理師の資格を持っている。

山口さんの勤務校は1校。ほかの自治体のSCなどの仕事もあるのでただちに生活が困るというわけではないが、予想外の170万円の年収ダウンの影響は小さくない。

「まさか自分が雇い止めになるとは思いませんでした。どうして私が不採用なのか、その理由を知りたい」

都教委によると、都のSCは約1500人。全員が非正規公務員である「会計年度任用職員」で、都内の公立小中学校や高校などに配置されている。来年度以降の契約更新を希望して試験を受けたSCは1096人で、このうち250人が不合格となった。雇い止めの理由について都教委指導企画課は「雇用機会公平性の確保のため。SCをやりたいという市民の方々に広く挑戦する機会をもってもらうためです」と説明する。

SCは公務員なので、正確には「雇い止め」ではなく「再任用拒否」という。しかし、10年、20年と働き続け、その収入で生計を立ててきたSCにとっては事実上の解雇、雇い止めである。今回の“大量解雇”を受け、SCたちが加入する東京公務公共一般労働組合「心理職ユニオン」には、約70件の相談が寄せられているという。

取材では、話を聞いたほとんどのSCが山口さんと同じく「自分が雇い止めになるとは思わなかった」と口をそろえた。一方で会計年度任用職員であるSCの任用期間は原則1年。そのうえで都は「公募によらない任用は4回を上限とする」と定めている。会計年度任用職員への移行前から働くSCが書類審査や面接のある公募試験を受けなくても働けるのは最長で4年となっていた。

会計年度任用職員制度は2020年度に始まったので、2023年度末でちょうど丸4年。都教委は「機会あるごとに(対象となるSCには)公募について周知してきた」と主張する。公募では新規の求職者も対象となるうえ、都の場合、先述したように経験者のそれまでの実績は考慮されない。

なぜ「会計年度任用職員」が生まれたのか

認識の乖離はなぜ生じたのか。ここで会計年度任用職員について説明しよう。

国や地方自治体で働く非正規公務員は、かつては非常勤職員や臨時職員、パート職員などさまざまな呼称で呼ばれ、採用方法や待遇もばらばらだった。このため法改正により、2020年度以降は原則すべての非正規公務員が「会計年度任用職員」に移行、統一された。

これによりボーナスや通勤手当の支給などが進んだ一方で、任用期間は1年という仕組みがあらためて徹底された。ただ実際には、多くの自治体が回数の上限を設けたうえでほぼ自動的に任用更新を行っている。これを「公募によらない再任用」という。都の場合は上限4回。自治体の中には上限を設けていないところもある。

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