感情表現で交渉や面接の結果を有益に変える方法 人間の話し合いは理性以外の要素も大きい

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怒りは、脅威を与える感情であるため、交渉相手は脅威を回避するために譲歩するのだと考えられます。例えば、売買交渉で売り手がどうしても商品を売らなくてはならない場合、力関係は買い手の方が上です。怒り表情を見せられた売り手は、「売れないかもしれない」という脅威を回避するために、譲歩します。

逆に、買い手がどうしても商品を買いたい場合、力関係は売り手の方が上です。怒り表情を見せられた買い手は、「買えないかもしれない」という脅威を回避するために、譲歩する、ということです。

私が実施したこの実験でも、買い手及び売り手のポイントが平等になり得る条件の組み合わせがあったものの、怒り表情(あるいは、熟考、その両方)を生じさせたこの画像の買い手は、売り手から譲歩を引き出し、売り手に比べ、1.3倍ほど多くポイントを獲得することができました。

力関係によって効果が変化する

しかし、力がないのに、怒り表情を見せることは逆効果になります。また、力があったとしても、怒りによって譲歩を引き出され、利得を失った交渉相手は、怒りを表出した人物に対する信頼を失い、その人物と将来交渉したくないと思うようになる、ということがわかっています。

このメタ分析の知見から学べることは、力があっても、自分の思い通りに進まないとき、怒り表情が生じないようにする、あるいは、怒り表情と誤認識されやすい熟考表情をするとき、「考えているので、猶予が欲しい」というメッセージを明確に示すようにする。こうしたことに気をつけることで、信頼関係を損なわず、誤解を回避し、将来の交渉機会を失わずに済むでしょう。

同じことが、力のない交渉者にも言えます。それは、力のない交渉者が、交渉中に怒りを表出する、あるいは、熟考が怒り表情と誤解されることで、目の前の交渉だけでなく、将来の交渉機会まで失ってしまう可能性が高まるからです。

理性中心と考えられるビジネス交渉の場でも、自身の感情を顧みて、表情をコントロールすることが大切だということがわかります。

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