3日に1日夫が殺人で検挙、「配偶者間DV」の実態 支援歴20年のベテランが怒りの告発

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――2001年に、近藤さんたちの働きかけで「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」、いわゆるDV防止法が成立しています。この法律は、対策に役立っていないのでしょうか。

DV防止法は、殺されそうな女性や子どもたちを守り、生活再建を支援することを定めています。けれども法律ができて十数年経つ今、相談窓口や相談件数が増えているのに、DV由来の殺人は減っていません。被害者の緊急支援システムが十分機能していないからです。

――DV被害者の駆け込み寺としては「シェルター」の存在が知られています。これは機能していないのでしょうか。

公的なシェルターは「婦人相談所」と呼ばれる施設ですが、現場の感覚では運営に問題が多いのです。民間シェルターの判断では危険度の高い殺されそうな人でも、婦人相談所で保護されないことがあります。たとえ、施設に空きがあっても、施設長が緊急保護の措置をしなかったら、被害者は行き場がなくなってしまう。統計をご覧いただくとわかるとおり、婦人保護施設における一時保護は逓減しています。

公的シェルターの問題点

――つまり、現状は「DV被害者保護の予算が足りない」というより、「ついている予算を有効に活用していない」ということでしょうか。

そのとおりです。婦人保護施設は本来、それを必要としている人を追い返してはいけないのです。医師やカウンセラー、通訳などの予算もきちんとついていますが、十分に使われていないのが現状です。

具体例を挙げましょう。DV防止法では被害者への保護命令を出すことができます。6カ月の接近禁止命令、2カ月間の退去命令などを申請して、その間に安全な生活を準備するわけですが、「保護命令が出ているから緊急保護は必要がない」とセンター入所を断られたケースがあります。保護命令が発令されるほど凶暴な相手なのです。発令中も恐怖は消えません。

また、被害届を出して加害者を逮捕したとしても、24時間拘留の後、加害者は外に出てきてしまいます。被害者は「いつ殺されるかわからない」恐怖と不安で、元の地域では生活できないのです。

――それでも保護しないのは、なぜでしょうか。

今、婦人相談所の多くがやっているのは「緊急保護の必要度に応じた対応」というもので、これが問題なのです。「あなたはおカネがあるからアパートを借りられますよね」と追い返してしまう。おカネがあっても、いつ、また暴力を振るわれるかわからない、殺されるかもしれないと思ったら、普通に生活をするのは困難です。

また、長期間にわたりDV被害にさらされてきた人は、精神に不調をきたしており、薬を飲んでいることも多いのです。そういう人は「集団生活ができないから」と、やはり、入れてもらえないことがあります。実際、婦人相談所から精神病院に回されて強い薬を処方され、足元がふらついて骨折してしまった人もいます。

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